トラブル後の気持ちの立て直しと仲直り:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
発達障害のあるお子様との関わりの中で、予期せぬトラブルが起きたり、お子様が気持ちを切り替えられずに固執してしまったりすることは、多くの保護者の方が経験される状況かもしれません。トラブルの後、どう声をかけたら良いのか分からず、お互いに感情的になってしまうこともあるかもしれません。
この記事では、発達障害のあるお子様がトラブルの後で気持ちを立て直したり、仲直りへ向かうのをサポートするための具体的な声かけや、家庭で簡単にできる工夫についてご紹介します。これらのヒントが、お子様とのコミュニケーションをより穏やかで円滑にする一助となれば幸いです。
トラブル後に気持ちの立て直しや仲直りが難しい背景
まず、トラブルが起きた後に、発達障害のあるお子様が気持ちを切り替えたり、謝ったりすることが難しく感じられる背景には、いくつかの発達特性が関係している場合があります。
- 感情の調整が難しい: 感情のオンオフの切り替えが苦手だったり、一度高ぶった感情を鎮めるのに時間がかかったりすることがあります。
- 思考の切り替えが難しい: 過去の出来事や自分の感情に囚われてしまい、別のことを考えたり、次の行動に移ったりするのが難しい場合があります。
- 状況や相手の気持ちの理解: その場で何が起きたのか、相手がどう感じているのかを客観的に把握したり、推測したりすることが難しいことがあります。
- 言葉での表現の難しさ: 自分の気持ちや考えを言葉で適切に伝えたり、謝罪の言葉を言うことに抵抗や難しさを感じたりすることがあります。
- 感覚過敏など: 怒られている時の声のトーンや表情、身体的な接触などが、混乱や不快感を増幅させ、状況の悪化を招くことがあります。
これらの特性を理解した上で、お子様が安心して気持ちを立て直し、仲直りに向かえるようなサポートを考えていくことが重要です。
具体的な声かけと家庭でできる工夫
トラブル後の対応は、その時の状況や、お子様の状態によって様々ですが、ここではいくつかの段階に分けて、具体的な声かけと工夫をご紹介します。
1. クールダウンのサポート
トラブル直後でお互いが感情的になっているときは、まずは冷静になることが最優先です。
- 声かけ例:
- 「一旦、落ち着こうか。少しだけ離れてみよう。」
- 「怒っている気持ち、つらい気持ち、一旦深呼吸で外に出してみようか。(一緒にゆっくり深呼吸をする)」
- 「〇〇(お子様の名前)が落ち着ける場所で、少しだけ静かに過ごしてみる?」
- 家庭でできる工夫:
- 「クールダウンコーナー」の設置: 部屋の隅や、落ち着ける場所に、クッションやぬいぐるみ、お気に入りのブランケットなどを置いておき、「ここで少し休憩しようね」と促せる場所を用意しておくと良いでしょう。
- 感覚を落ち着けるアイテム: タングルティーザーのような感覚刺激を与えられるもの、柔らかな布、お気に入りの音楽など、お子様がリラックスできるものを用意しておきます。
- 物理的な距離: 少しだけお子様と距離を取ることで、お互いの感情的な高ぶりを鎮める時間を作ります。
ポイント: 感情の波が高い時に、すぐに理由を問い詰めたり、謝罪を求めたりしても、適切に伝わらないことが多いです。まずは安全を確保し、感情を鎮めるための具体的な行動や場所を提供することが大切です。
2. 起きたことの確認と気持ちの聞き取り
お互いが落ち着いてきたら、何が起きたのかを客観的に振り返り、それぞれの気持ちを確認します。
- 声かけ例:
- 「さっき、△△があって、〇〇(具体的なお子様の行動)になったね。ママはびっくりしたよ。」(まずは事実をシンプルに伝える)
- 「その時、〇〇ちゃんはどんな気持ちだったかな? 〇〇したかったの?」
- 「△△ちゃん(相手)は、〇〇された時に、悲しい気持ちになったみたいだよ。お顔がこんな顔(悲しい顔をしてみせる)になってたね。」
- 家庭でできる工夫:
- 絵や写真、文字の活用: 状況を説明する際に、言葉だけでなく絵や写真を使ったり、ホワイトボードに出来事を書き出したりすることで、視覚的に理解を助けます。
- 「気持ちカード」や表情カード: 自分の気持ちや相手の気持ちを表現するのが難しい場合、「嬉しい」「悲しい」「怒っている」といった気持ちが書かれたカードや、表情のイラストが描かれたカードを使って選んでもらう方法も有効です。「今の〇〇ちゃんの気持ちはこれかな?」と提示することもできます。
ポイント: 責めるような口調ではなく、あくまで「何が起きたか」「どう感じたか」という事実や感情の確認に焦点を当てます。お子様が言葉でうまく表現できなくても、絵やカードなど他の手段で気持ちを伝える練習をサポートします。
3. どうすればよかったか? を一緒に考える
トラブルの原因となった行動や、その時の気持ちを踏まえて、次に同じような状況が起きた場合にどうするかを一緒に考えます。
- 声かけ例:
- 「さっきは、△△したい気持ちが強かったんだね。でも、〇〇したら△△(相手)が困っちゃったね。次は△△したい時、どうしてみようか?」
- 「もし、さっきの場面に戻れるとしたら、どんな違うやり方ができるかな? 考えてみよう。」
- 「もし、困った時に、誰かに助けてって言えたらどうかな?」「『貸して』って言えたらどうかな?」
- 家庭でできる工夫:
- 選択肢を提示する: いくつかの解決策を具体的に示し、「AとB、どっちがいいかな?」と選んでもらいます。
- ロールプレイング: 実際の状況を想定して、「じゃあ、もし次こうなったら、一緒にこう言ってみようか」と、言葉や行動の練習をしてみます。
- 絵や漫画でシミュレーション: トラブルが起きやすい状況や、解決策の行動を絵や簡単な漫画にして、分かりやすく提示します。
ポイント: ダメだったことを指摘するだけでなく、建設的に「次につながる行動」に焦点を当てることで、お子様は前向きに解決策を学ぶことができます。「どうしてできなかったの?」ではなく、「どうしたらできるか?」という視点を大切にします。
4. 謝罪や仲直りのサポート
謝罪や仲直りは、社会的な関係を修復するために大切なステップです。言葉での謝罪が難しくても、別の方法をサポートします。
- 声かけ例:
- 「〇〇(相手)に、さっきはごめんね、の気持ちを伝えようか。」
- 「なんて言ったら、ごめんねの気持ちが伝わるかな? 一緒に考えてみようか。『〇〇してごめんね』かな。」
- 「言葉で言うのが難しかったら、お手伝いすることでごめんね、の気持ちを伝える方法もあるよ。」
- 「握手して仲直りしようか。」「ぎゅーってしたら、仲直りできるかな?」
- 家庭でできる工夫:
- 謝罪の言葉を一緒に考える: 具体的な言葉の例をいくつか示したり、一緒に声に出して練習したりします。
- 謝罪以外の方法の提案: 「一緒に片付ける」「手伝いをする」「絵をプレゼントする」「何かを貸してあげる」など、言葉以外の方法で「ごめんね」「仲直りしたいな」の気持ちを伝えられる選択肢を提示します。
- 仲直りのルーティン: 握手、ハグ、特定の言葉(「また一緒に遊ぼうね」など)を決めておき、仲直りのサインとして使う練習をします。
ポイント: 「早く謝りなさい!」と強要することは、お子様の心を閉ざしてしまう可能性があります。謝罪や仲直りの言葉や行動の意味を丁寧に伝え、できるようになるまで寄り添ってサポートすることが重要です。言葉だけでなく、行動で気持ちを伝えることも認めてあげましょう。
5. ポジティブな面に注目する
トラブルがあった後でも、お子様が見せたポジティブな行動や、少しでも成長が見られた点に注目し、具体的に伝えます。
- 声かけ例:
- 「さっきは大変だったけど、自分で『クールダウンする』って決めて、静かな場所に行こうとしたのは、すごく頑張ったね!」
- 「△△ちゃんに、困ってる気持ちを伝えようとしたんだね。偉かったよ。」
- 「難しかったと思うけど、ママと一緒に『ごめんね』って言ってみてくれて、ありがとう。」
- ポイント: トラブルそのものや、できなかったことにばかり焦点を当てるのではなく、その過程で少しでも見られた「できたこと」「頑張ったこと」を具体的に褒めることで、お子様の自己肯定感を育み、次への意欲に繋がります。
応用と継続のヒント
ご紹介した声かけや工夫は、すぐに効果が出るものではないかもしれません。大切なのは、繰り返し試してみること、そしてお子様の反応を見ながら、柔軟にアプローチを調整することです。
- 親自身の感情のコントロール: お子様のトラブルに巻き込まれて、保護者の方自身も感情的になってしまうことは自然なことです。しかし、可能な範囲で落ち着いたトーンを保つことが、お子様を安心させることに繋がります。ご自身のクールダウン方法も持っておくと良いでしょう。
- 事前の準備: トラブルが起きやすい状況(例:疲れている時、刺激が多い場所など)を把握し、事前に声かけや環境調整などの予防策を講じることも有効です。
- 完璧を目指さない: 毎回スムーズにいくわけではありません。うまくいかない時があっても、「まあ、こんなこともあるよね」と受け止め、次に繋げることが大切です。
まとめ
発達障害のあるお子様が、トラブルの後で気持ちを立て直し、仲直りすることは、練習とサポートが必要です。今回ご紹介した具体的な声かけや家庭での工夫は、お子様が感情を調整する方法や、人との関係を修復する方法を学ぶための大切なステップとなります。
お子様の発達特性を理解し、根気強く、そして温かく寄り添う姿勢が何よりも大切です。一つずつ、できることから試してみてください。そして、お子様の小さな変化や成長をぜひ見つけて、伝えてあげてください。お子様とのコミュニケーションが、少しでも穏やかなものになることを願っています。