朝の困りごと(起きない・準備しない)に:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
お子様が朝なかなか起きてこない、着替えや朝食、準備が進まず毎日バタバタしてしまう。そんな状況に、ついイライラして強い口調になってしまい、後で自己嫌悪に陥る。発達障害のあるお子様を持つ多くの保護者様(特に、日中お子様と過ごすことが多いお母様)が抱える共通の悩みではないでしょうか。
お子様の「朝の困りごと」には、発達特性が影響している場合があります。例えば、時間感覚の捉えにくさ、見通しを持つことの難しさ、注意や行動の切り替えが苦手といった特性です。そのため、ただ「早くしなさい」と急かすだけでは、お子様には響きにくく、かえって混乱や反発を招くこともあります。
この記事では、発達障害のあるお子様の「朝の困りごと」を少しでもスムーズにするために、家庭で今日から試せる具体的な声かけや簡単な工夫をご紹介します。これらのヒントが、毎朝の負担を減らし、お子様との穏やかな時間を増やすための一助となれば幸いです。
なぜ朝の準備が難しいのか?発達特性との関係
お子様が朝の準備に手こずる背景には、様々な発達特性が関係している可能性があります。その一部をご紹介します。
- 時間感覚の捉えにくさ: 「あと〇分」と言われても、その時間がどのくらいなのか、何をすべき時間なのかを具体的にイメージすることが難しい場合があります。
- 見通しを持つことの難しさ: 朝起きてから家を出るまでに「何をして」「どの順番で」進めれば良いのか、全体の流れを把握するのが苦手なことがあります。
- 注意や行動の切り替えの難しさ: 楽しい夢から覚める、寝ている状態から活動モードに切り替える、特定の行動(例:着替え)から次の行動(例:朝食)へ移るといった、状態や活動の切り替えに時間がかかることがあります。
- 感覚の特性: 着替えたい服の肌触りが苦手、朝の光や音が刺激的すぎる、眠りから覚醒しにくいなど、感覚の特性が朝の行動に影響することもあります。
これらの特性を理解することで、「やる気がない」のではなく「難しさがある」ことを認識し、適切なサポート方法を見つける第一歩となります。
朝の困りごとをスムーズにする具体的な声かけと工夫
ここでは、朝の様々なシーンで役立つ具体的な声かけや家庭でできる工夫をご紹介します。
1. 起床時:優しく、分かりやすく働きかける
大きな音で突然起こしたり、急かすような声かけは、覚醒や気分の切り替えが苦手なお子様には強いストレスになることがあります。
- 声かけ例:
- 「おはよう。朝だよ。〇〇(お子様の名前)、起きようか。」(穏やかなトーンで優しく)
- 「いい天気だよ。カーテンを開けてみようか。」(五感に働きかけ、穏やかに覚醒を促す)
- 「(お子様の好きなことと結びつけて)〇〇(好きなテレビ番組や遊び)が始まる前に準備しようね。」
- 「あと〇分で布団から出ようね。」(具体的な時間を示す)
- 工夫:
- 起きる時間を毎日一定にする。
- 目覚まし時計の音量を調整したり、光で起こすタイプの目覚ましを試したりする。
- 起きたらすぐにすること(例:トイレに行く、顔を洗う)を決めておく。
- 起きたらまずカーテンを開けて外の光を入れる。
2. 身支度・着替え:手順を明確にし、選択肢を減らす
着替えの手順が分からなかったり、服を選ぶのに迷ってしまったりすることがあります。
- 声かけ例:
- 「まず、パジャマを脱ごうね。次は下着だよ。」(行動を具体的に分解して伝える)
- 「今日の服はどっちにする?(事前に準備した2~3着を見せて)青い服と緑の服、どっちがいいかな。」(選択肢を限定して提示する)
- 「このカードの順番で着替えようね。」(視覚的な手順を示す)
- 「着替えが終わったら、次はご飯だよ。頑張ろう!」(次に行うことや見通しを示す)
- 工夫:
- 着替えの手順をイラストや写真で示した「やることリスト」や「手順カード」を作成し、壁に貼るなどいつでも見えるようにする。
- その日の服を前日の夜に一緒に準備しておく。
- 選択肢に迷わないように、着る服をあらかじめ2~3着に絞って提示する。
- 服の肌触りなど感覚過敏がある場合は、お子様が着られる素材やデザインの服を選ぶ。
3. 朝食:環境を整え、見通しを持つ
席に着くまでに時間がかかったり、食べ始めてから集中が続かなかったりすることがあります。
- 声かけ例:
- 「ご飯の時間だよ。席に着こうね。」(何をすべきかを具体的に伝える)
- 「このご飯を食べ終わったら、次は歯磨きだよ。」(次に行うことや見通しを示す)
- 「時計の短い針が〇になるまでに食べ終わろうね。」(視覚的な時間目標を示す)
- 「〇〇(お子様の名前)の大好きな〇〇(食べ物)だよ。一口食べてみようか。」(食べる行動を促す)
- 工夫:
- 食事中に気が散らないよう、テレビを消すなど環境を整える。
- 座る席を決めておく。
- 「朝食→歯磨き→洗顔→着替え…」のように、朝のルーティンを視覚化して壁に貼っておく。食事がこのルーティンの中に含まれていることを明確にする。
- 食べやすい量や形に工夫する(感覚過敏・鈍麻への配慮)。
4. 持ち物準備:置き場所を決め、チェックリストを活用する
時間割を見て明日の準備をしたり、必要なものを自分でリュックに入れたりすることが難しい場合があります。
- 声かけ例:
- 「明日の準備をしようね。まずは時間割を確認しよう。」(行動の始まりを明確にする)
- 「国語の教科書はどこにあるかな?一緒に探そう。」(探し方をサポートする)
- 「このリストを見て、準備するものが全部揃っているか一緒にチェックしよう。」(チェックリストの活用を促す)
- 「筆箱はいつもこの場所に戻そうね。そうすればなくさないよ。」(物の定位置を意識させる)
- 工夫:
- 学校用品や持ち物の「定位置」を決めて、そこに片付ける習慣をつける。棚にラベリングするのも有効です。
- 持ち物リストを印刷し、準備ができたらチェックをつけられるようにする。できればイラストや写真付きだとより分かりやすくなります。
- 時間割や持ち物リストを壁など目につく場所に貼る。
- 前日の夜に翌日の準備を終えるルーティンを作る。
5. 出発:時間予告と見通しを示す
出発時間が迫っていることを理解するのが難しく、遊びや別の活動に夢中になってしまうことがあります。
- 声かけ例:
- 「出発まであと〇分だよ。今していることを終わらせようね。」(具体的な時間を示し、行動の区切りを促す)
- 「時計の長い針が〇になったら出発だよ。」(視覚的な時間目標を示す)
- 「靴を履いて玄関で待っていてね。」(次にすべき行動を具体的に指示する)
- 「時間通りに準備できて素晴らしいね!行ってらっしゃい。」(できた行動を具体的に褒める)
- 工夫:
- キッチンタイマーや砂時計など、視覚的に残り時間が分かるタイマーを使う。
- 出発時間前に「あと10分」「あと5分」のように複数回声かけやタイマーで予告を入れる。
- 朝のルーティンの最後に「家を出る」という項目を入れる。
- 玄関にカバンや靴を置く場所を決めておく。
実践上のポイントと応用
ご紹介した声かけや工夫を試す際に、いくつか押さえておきたいポイントがあります。
- 全てを完璧にしようとしない: 一度に全てを改善しようとせず、お子様にとって特に難しいと感じられる部分や、家庭で改善しやすい部分から一つずつ取り組んでみてください。
- スモールステップで褒める: 目標を細かく分け、小さなことでもできたら具体的に褒めましょう。「靴下を自分で履けたね、すごいね!」「リストを見て準備できたね、えらい!」など、お子様の自信に繋がります。
- 視覚的なサポートを積極的に取り入れる: 口頭での指示だけでなく、文字、イラスト、写真を使ったリストや手順表、タイマーなどを活用すると、お子様はより理解しやすくなります。
- 親自身の心のケアも大切に: 毎朝のバタバタは親御様にとっても大きなストレスです。完璧を目指しすぎず、うまくいかなかった日があっても自分を責めすぎないでください。少しでも状況が改善されたら、自分自身の頑張りも認めましょう。
- うまくいかない時は専門家へ相談: どうしても改善が見られない場合や、お子様が強い抵抗を示す場合は、抱え込まずに地域の相談機関や専門家(児童発達支援センター、専門医、スクールカウンセラーなど)に相談することも考えてみてください。
まとめ
発達障害のあるお子様にとって、朝の時間は様々な特性が影響し、スムーズな行動が難しい場合があります。「早くしなさい」という声かけだけでは、お子様も親御様もつらい状況が続いてしまいがちです。
今回ご紹介した具体的な声かけや、視覚的なサポート、ルーティン化などの家庭での工夫は、お子様が朝の流れを見通し、一つ一つの行動を理解し、スムーズに進めるための手助けとなります。
今日からできることから少しずつ取り入れてみてください。これらのヒントが、お子様とのコミュニケーションをより穏やかで、毎朝を少しでも笑顔でスタートできるきっかけとなれば幸いです。一人で悩まず、利用できるサービスや専門家の力も借りながら、お子様とのより良い関係を築んでいきましょう。