「どうしたらいい?」を自分で考える力を育む:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
「どうしたらいい?」を自分で考える力を育む:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
お子様から「これ、どうしたらいいの?」「分からない」と聞かれたとき、ついすぐに答えを教えてしまったり、代わりにやってあげたりすることはありませんか?
発達障害のあるお子様の場合、情報の処理の仕方や、問題解決のプロセスを組み立てることに難しさを抱えていることがあります。そのため、自分で考えたり、どう行動したら良いか判断したりすることが苦手な場合があります。しかし、すぐに答えを与え続けるのではなく、お子様自身が考え、解決策を見つける経験を積むことは、将来の自立に向けて非常に重要です。
この課題に対して、保護者の方がどのように関われば、お子様が自分で考え、解決する力を育むことができるのでしょうか。この記事では、具体的な声かけの例や、家庭で簡単に試せる工夫をご紹介します。
なぜ「自分で考える力」を育むことが大切なのか
発達障害のあるお子様は、指示されたことや、決まった手順に沿って行動することは得意でも、予測不能な状況や、複数の選択肢がある中で「自分で判断して行動する」ことに難しさを感じやすいことがあります。これは、実行機能と呼ばれる脳の機能(計画を立てる、優先順位を決める、行動を始める・続ける・切り替える、自己を監視するなど)の発達に偏りがあるためと考えられています。
自分で考える力や問題解決力は、この実行機能と深く関連しています。これらの力を育むことは、学校生活や将来社会に出た際に、予期せぬ出来事に対応したり、困難な状況を乗り越えたりするために不可欠なスキルとなります。また、「自分でできた」という成功体験は、自己肯定感を高めることにも繋がります。
すぐに答えを教えるのではなく、お子様が自分で考えるための「足がかり」を提供することで、思考のプロセスを学び、徐々に自分で解決できるようになることを目指します。
具体的な声かけの例と工夫
それでは、日常の様々なシーンで使える具体的な声かけと、家庭で実践できる工夫をご紹介します。
1. 困っている様子に気づいたら、まずは共感を示す
お子様が何かで困っている、手が止まっている様子が見られたら、すぐに解決策を提示するのではなく、まずはお子様の状況や気持ちに寄り添う言葉をかけます。
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声かけ例:
- 「あれ?何か困っているのかな?」
- 「手が止まっているね。どうしたの?」
- 「難しそうに見えるね」
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ポイント:
- 問い詰めるような口調ではなく、穏やかに、お子様の様子を観察していることを伝えます。
- お子様が言葉でうまく伝えられない場合でも、「困っていること」に気づいている、というメッセージを送ることが大切です。
- この段階では解決策は提示せず、お子様が自分の状態を認識するきっかけを作ります。
2. 状況を整理し、課題を明確にする声かけ
お子様自身が何に困っているのか、課題が何なのかを理解できていない場合があります。一緒に状況を整理する手助けをします。
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声かけ例:
- 「これは〇〇(課題、例:算数の問題)だね。どこが難しい?」
- 「△△(状況、例:ブロックがうまく積めない)みたいだけど、どうなりたいの?」
- 「この絵(指示書や手順など)を見て、どこまでできたか教えてくれる?」
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ポイント:
- 具体的な言葉で、お子様が取り組んでいる内容や状況を一緒に確認します。
- 「何が問題なのか」「どうしたいのか」を明確にすることで、解決に向けた第一歩を踏み出せるよう促します。
- 視覚的な情報(絵、図、実際の物)を指差し確認するなど、お子様の理解しやすい方法を取り入れます。
3. 自分で考えるヒントを与える声かけ
お子様が自分で解決策を見つけるための「ヒント」や「切り口」を提供します。答えそのものは言いません。
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声かけ例:
- 「前に似たようなこと、どうやってやったっけ?」
- 「これを使うと、どうなるかな?」
- 「これを△△(別の角度、別の視点)から見てみたらどう?」
- 「〇〇(例:教科書や参考になるもの)を見てみようか?」
- 「他に何か方法は考えられるかな?」
- 「もし△△(例:このブロック)を動かすとしたら、どこに動かす?」
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ポイント:
- オープンクエスチョン(「はい」「いいえ」で答えられない質問)を使い、お子様の思考を引き出します。
- 過去の成功体験や、参照すべき情報源(教科書、説明書、以前作った作品など)に意識を向けさせます。
- すぐに答えが出なくても、考える時間を与え、焦らせないことが重要です。
- ヒントはあくまで「手がかり」であり、お子様が自分で答えにたどり着けるように導きます。
4. 行動の選択肢を提示し、選ばせる工夫
どうしても自分で解決策を見つけられない場合や、複数の選択肢を提示することで考えやすくする場合に有効です。
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声かけ例:
- 「この問題を解くのに、Aの方法とBの方法があるけど、どっちから試してみる?」
- 「△△するには、まずは〇〇(具体的な最初のステップ)をするか、それとも別の方法で始めるか、どっちがいいかな?」
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工夫:
- 選択肢を視覚的に提示する: 紙に書き出す、絵や写真で見せるなどして、混乱を防ぎます。
- 選択肢は少なくする: 最初は2つなど、選びやすい数に限定します。
- それぞれの選択肢を選んだ後の結果を一緒に考える: 「もしAを選んだら、次はどうなると思う?」などと問いかけ、結果予測の練習にも繋げます。
5. プロセスを細分化し、スモールステップを示す工夫
課題が大きく、どこから手をつけて良いか分からない場合に有効です。
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声かけ例:
- 「この大きな絵を完成させるには、まず何から始めるのがいいかな?(例:色を塗る?線を書く?)」
- 「お部屋を片付ける前に、まずはどこから片付けるか決めようか。おもちゃから?本から?」
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工夫:
- タスクリストを作成する: 課題を小さなステップに分け、箇条書きやチェックリストにします。完了したらチェックを入れることで達成感が得られます。
- 手順を視覚化する: 絵カード、写真、文章で手順を示した「やることリスト」を作成します。
- タイマーを使う: 一つのステップに集中できる時間の目安を設けるなど、時間管理のサポートをします。
6. 成功体験を具体的に褒める声かけ
自分で考えて行動できたとき、あるいは考えようと努力したプロセスを具体的に褒めます。
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声かけ例:
- 「自分で〇〇(具体的な行動、例:教科書の〇ページ)を見て、答えを見つけられたね!すごい!」
- 「すぐに諦めないで、どうすればいいか自分で考えていたね。その頑張りが素晴らしいよ。」
- 「△△と□□、二つのやり方を考えられたんだね。色々な方法を考えるのが得意だね。」
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ポイント:
- 結果だけでなく、そこに至るまでの「思考のプロセス」や「努力」に焦点を当てて褒めます。
- どのような行動が良かったのかを具体的に伝えることで、お子様は成功したパターンを学びやすくなります。
- 「できたこと」を一緒に喜び、達成感を共有します。
応用・発展:より自立的な問題解決へ
お子様が少しずつ自分で考えられるようになってきたら、以下のようなステップにも挑戦できます。
- 失敗を次に繋げる声かけ: うまくいかなかった時も、「どうしてうまくいかなかったのかな?」「次はどうしたらいいと思う?」と一緒に振り返り、学ぶ機会とします。失敗から学び、次に活かす力も重要な問題解決能力の一部です。
- 他者に助けを求める練習: 自分で考えても分からない時に、「誰に聞けばいいかな?」「どんな情報を探せばいいかな?」と一緒に考え、適切な助けを求める練習をします。一人で抱え込まず、周りを頼ることも自立に必要なスキルです。
- 複数の解決策を比較検討する練習: 一つの解決策だけでなく、いくつか候補を挙げ、それぞれのメリット・デメリットを一緒に考える練習をします。より良い選択をするための判断力を養います。
まとめ
発達障害のあるお子様が「どうしたらいい?」と困ったとき、すぐに答えを教えるのではなく、自分で考え、解決する力を育むためのサポートが大切です。
そのためには、まずお子様の困りごとに寄り添い、状況を整理する手助けをします。そして、直接的な答えではなく、考えるためのヒントや、具体的な行動の選択肢、課題を細分化するといった工夫を取り入れます。そして、自分で考えたり、解決に向けて行動できたりしたプロセスや努力を具体的に認め、褒めることで、成功体験を積み重ね、自信に繋げます。
焦らず、お子様のペースに合わせて、スモールステップで取り組んでみてください。今日ご紹介した声かけや工夫が、お子様の「自分で考える力」を育むための一歩となり、親子のコミュニケーションがより穏やかで、実りあるものになることを願っています。
一人で抱え込まず、お子様の成長を応援していきましょう。