失敗や間違いを指摘された時の対応:発達障害の子の混乱を防ぐ声かけと工夫
お子様が失敗や間違いを指摘された時、どうすればいい?
発達障害のあるお子様との日々のコミュニケーションの中で、お子様が何か失敗をしてしまったり、約束と違う行動をとったりした際に、それを指摘したり注意したりする必要が出てくる場面があるかと思います。
その時、お子様が予想以上に強く反発したり、パニックになったり、あるいは全く動けなくなって固まってしまったりして、どう対応すれば良いか悩んでいらっしゃる方もいらっしゃるかもしれません。「良かれと思って伝えたのに、なぜかいつも険悪な雰囲気になってしまう」と感じることもあるかもしれません。
この記事では、発達特性によってお子様が指摘や注意をどのように受け止めやすいのかを解説し、混乱や反発を防ぎ、お子様が前向きに次の行動に移れるようになるための、具体的な声かけや家庭でできる工夫をご紹介します。お子様とのコミュニケーションが少しでも穏やかになるヒントとして、ぜひご活用ください。
なぜ指摘されると混乱したり反発したりしやすいのか
まず、なぜ発達障害のあるお子様の中には、失敗や間違いを指摘されたり、注意されたりした時に混乱したり、強く反発したりしやすい特性があるのかを理解しておきましょう。これは、お子様が意地悪でしているわけではなく、発達特性が関係していることが多くあります。
考えられる理由としては、以下のような点が挙げられます。
- 完璧主義や失敗への強い恐れ: 真面目で完璧主義な特性がある場合、「失敗してはいけない」という気持ちが非常に強く、失敗を指摘されることが自己否定のように感じられてしまうことがあります。
- 言葉の受け取り方の特性: 言葉を文字通りに受け止めやすかったり、否定的な言葉や強い口調に過敏に反応してしまったりすることがあります。単純な注意でも、頭の中で大きく捉えすぎてしまうことがあります。
- 感情の調整の難しさ: 自分の感情を適切に認識したり、コントロールしたりすることが難しい場合があります。指摘されたことによるショックや怒り、恥ずかしいといった感情に圧倒されてしまい、パニックや反発という形で表れてしまうことがあります。
- 過去の経験: 過去に失敗を強く責められた経験があったり、否定的なフィードバックを受けることが多かったりした場合、再び同じような状況になることへの不安や恐れから、反射的に防御的になってしまうことがあります。
- 複数の情報を同時に処理する難しさ: 指摘されている内容、その時の自分の感情、次にどうすれば良いか、といった複数の情報を同時に処理することが苦手な場合、混乱してしまい適切な反応が分かなくなってしまうことがあります。
このような特性を理解することで、「どうしてうちの子はこんなに頑ななんだろう」という視点から、「この特性があるから、こういう受け止め方をするのかもしれないな」という視点に切り替えることができます。この理解が、穏やかな声かけや工夫の第一歩となります。
混乱を防ぎ、前向きに促す具体的な声かけ
お子様が指摘や注意を穏やかに受け止め、次に繋げるためには、伝える内容だけでなく「伝え方」が非常に重要です。ここでは、具体的な声かけの例とポイントをご紹介します。
1. まずは共感を示す、落ち着いてから話す
お子様がすでに感情的になっている場合は、まずはお子様の気持ちに寄り添い、落ち着くのを待つことが大切です。
具体的な声かけ例:
- 「〜だったんだね。大変だったね。」(お子様の状況や気持ちを短い言葉で繰り返す)
- 「今は少し辛いね。落ち着いてからまた話そうか。」
- 「大丈夫だよ、そばにいるよ。落ち着いてから話を聞かせてくれる?」
ポイント: 感情的に不安定な時に何を言っても、適切に届かない可能性が高いです。まずは安全と安心を感じさせ、クールダウンを促しましょう。すぐに解決しようとせず、待つことも重要なスキルです。
2. 具体的に、短い言葉で伝える
抽象的な表現や長い説明は、お子様にとって理解が難しく、混乱の原因になります。「ちゃんと」「きちんと」といった曖昧な言葉は避け、具体的に何が問題で、どうすれば良いのかを明確に伝えましょう。
具体的な声かけ例:
- 「〇〇(おもちゃ)が床に出ているね。棚に戻してくれる?」
- 「このプリント、明日の宿題だね。今から5分だけやってみようか。」
- 「お友達を叩いちゃったね。お友達は痛かったと思うよ。」(状況と相手への影響を具体的に伝える)
ポイント: 一度にたくさんのことを言わず、一つの指示や注意に絞りましょう。肯定的な言葉(「〜しない」ではなく「〜する」)で伝える工夫も有効です。
3. 否定ではなく、次にどうするかを伝える
失敗や間違いを責めるのではなく、「じゃあ、次からはどうしようか?」という未来志向の声かけを心がけましょう。
具体的な声かけ例:
- 「こぼしちゃったね。大丈夫、タオルで拭こうか。次は、コップを持つ時は両手で持ってみよう。」
- 「宿題、進まなかったね。今日はここまでにして、明日はまずこの一行だけやってみようか。」
- 「そのやり方だと、うまくいかないみたいだね。他のやり方をいくつか考えてみようか。」(解決策を一緒に考える)
ポイント: 「〜しちゃダメ」という否定的な言葉は、お子様の意欲を削ぎやすいです。「〜すると良いよ」「〜してみよう」という肯定的な言葉で、具体的な代替行動や改善策を示しましょう。
4. ポジティブな意図や努力に注目する
たとえ結果が失敗であっても、お子様が頑張った過程や、良い意図があった部分に注目して声をかけましょう。
具体的な声かけ例:
- 「お手伝いしてくれてありがとう。卵を割るのは難しかったね。でも、挑戦してくれて嬉しかったよ。次は、割った後の殻をここに置いてくれると助かるな。」
- 「一生懸命考えたんだね。答えは違ったけど、自分で調べようとしたのが素晴らしいね。」
ポイント: お子様の自己肯定感を守りながら、改善点を伝えることができます。ポジティブな面を先に伝える「サンドイッチ法」(褒める→伝える→励ます)も効果的です。
家庭でできる具体的な工夫
声かけだけでなく、家庭の環境や関わり方を少し工夫するだけでも、お子様が指摘や注意を受け止めやすくなることがあります。
1. ルールや期待を事前に明確にする
何が良くて何が問題なのか、家庭内のルールや保護者からの期待を事前に具体的かつ視覚的に示しておくと、お子様は理解しやすくなります。
具体的な工夫例:
- 「おもちゃは遊び終わったらこの箱に戻す」「ご飯の時間は椅子に座る」など、シンプルなルールを箇条書きや絵カードにして目につく場所に貼る。
- 何か新しいこと(習い事、お手伝いなど)に挑戦する前に、「こういう時はこうしようね」と流れや注意点をシミュレーションしておく。
ポイント: ルールを破った時に初めて伝えるのではなく、日頃から確認しておくことが大切です。視覚的なサポートは、耳からの情報処理が苦手なお子様に特に有効です。
2. 失敗をリカバリーする方法を練習する
失敗したこと自体よりも、「失敗した時にどうすれば良いか分からない」ことが混乱の原因になることがあります。失敗のリカバリー方法を一緒に練習しておきましょう。
具体的な工夫例:
- 物をこぼした時:「こぼしたら、まずタオルを持ってきて、こうやって拭こうね。」
- 友達に嫌なことを言ってしまった時:「言っちゃいけないことを言っちゃったら、『ごめんね』と伝えようね。相手が嫌がったら、離れてそっとしておこうね。」
- 失敗した時の気持ちの切り替え方:「失敗して悔しいね。そんな時は、深呼吸をしてみようか。グーパージャンプを3回してみようか。」など、具体的な行動を決めておく。
ポイント: 練習を重ねることで、実際に失敗した時にパニックにならず、「こうすれば大丈夫」という安心感を持つことができます。
3. 成功体験を意識的に増やす
日頃から些細なことでもお子様の良い行動や努力を認め、褒めることで、お子様の自己肯定感を育みます。「自分は大丈夫だ」「失敗してもやり直せる」という気持ちが強いほど、一時的な失敗や指摘にも揺らぎにくくなります。
具体的な工夫例:
- お手伝いができた時、自分で考えて行動できた時など、具体的に褒める(例:「〇〇を自分で片付けられたね、すごいね!助かったよ」)。
- 少し難しいことにも挑戦させ、成功体験を積ませる。
- 結果だけでなく、頑張った過程や努力を評価する。
ポイント: 褒める時は、「何が」「どう良かったのか」を具体的に伝えましょう。お子様自身が「できた!」と感じられる体験を増やすことが重要です。
4. クールダウンのための場所や時間を設ける
感情の調整が難しいお子様のために、感情的になりすぎた時に一人で落ち着けるクールダウンコーナーを設けたり、「イライラしたらこの部屋で過ごそうね」「クールダウンタイムにしよう」などと事前に決めておくと良いでしょう。
具体的な工夫例:
- 部屋の一角に、クッションや毛布、お子様が好きな絵本などを置いたクールダウンコーナーを作る。
- 感情的になったら「まずはお水でも飲んで深呼吸しようか」と、具体的な行動を提案する。
- タイマーを使い、「5分だけクールダウンしようね」などと時間を区切る。
ポイント: クールダウンは「罰」ではありません。感情の波を穏やかにするための手段であることを伝えましょう。
応用・発展:お子様に合わせて調整し、親自身も大切に
ご紹介した声かけや工夫はあくまで一般的な例です。お子様の特性やその時の状況によって、響く言葉や効果的な方法は異なります。
- お子様を観察する: どんな声かけの時に混乱しやすいか、どんな工夫が効果的か、お子様の反応をよく観察してみましょう。
- 完璧を目指さない: 一度に全てを完璧にこなそうと思わず、まずは一つか二つ、「これならできそう」と思うことから試してみてください。すぐに効果が出なくても落ち込む必要はありません。
- 親自身のケアも大切に: お子様への対応に疲れてしまわないよう、ご自身の休息時間や、信頼できる人に話を聞いてもらうなど、親御さん自身の心身の健康も大切にしてください。
お子様が失敗や間違いを通して学び、成長していく過程を、穏やかなコミュニケーションを通じてサポートできることを願っています。
まとめ
発達障害のあるお子様が失敗や間違いを指摘された時に混乱しやすい背景には、特定の特性が関係しています。お子様が混乱や反発を乗り越え、前向きに次に繋げるためには、以下の点が重要です。
- お子様の特性を理解し、なぜそのような反応をするのかを知る。
- 感情的になっている時はまず共感し、落ち着いてから話す。
- 具体的な言葉で、肯定的な伝え方を心がける。
- 失敗を責めるのではなく、次にどうするか、を一緒に考える。
- ルールや期待を事前に明確にする、リカバリー方法を練習するなど、環境や習慣を工夫する。
- 成功体験を積み重ね、お子様の自己肯定感を育む。
- お子様に合わせて柔軟に対応し、親自身も無理をしない。
これらのヒントが、お子様とのコミュニケーションをより円滑で穏やかなものにする一助となれば幸いです。一人で抱え込まず、必要であれば専門機関のサポートも検討してみてください。