発達障害の子の「話す」「聞く」をサポートする声かけと工夫:気持ちの伝え方・聞き方編
発達障害のあるお子様との会話、気持ちのすれ違いはありませんか?
「うちの子、自分の気持ちをなかなか言葉にしてくれない…」 「何度言っても話を聞いてくれない」「最後までお話を聞くのが難しいみたい…」
発達障害のあるお子様とのコミュニケーションで、このようなお悩みをお持ちの保護者の方は少なくないでしょう。特に、お子様が小学生になると、友達との関わりや学校生活、そして親子の間でも、自分の気持ちを伝えたり、相手の話を理解して聞くことが重要になってきます。
しかし、発達特性の影響で、「話す」「聞く」といった、一見当たり前に見えるコミュニケーションスキルにつまずきを感じるお子様もいらっしゃいます。感情や状況を言葉にする難しさ、聴覚からの情報を処理する難しさなどが背景にあるため、お子様だけの努力では難しい場合があるのです。
この記事では、発達障害のあるお子様が、よりスムーズに「話す」こと、そして「聞く」ことができるようになるための、家庭で実践できる具体的な声かけや簡単な工夫をご紹介します。すぐに試せるヒントを通じて、お子様との会話がより穏やかで建設的なものになるよう、一緒に考えていきましょう。
なぜ「話す」「聞く」が難しく感じられるのか?発達特性との関連
お子様が自分の気持ちを言葉にしたり、人の話を落ち着いて聞いたりすることが難しい背景には、いくつかの発達特性が関係している場合があります。
- 感情の認知や言語化の難しさ: 自分が今、どのような感情を感じているのか(嬉しい、悲しい、怒っているなど)を正確に認識したり、それに合う言葉を見つけることが苦手な場合があります。抽象的な感情を言葉で表現するには、高い言語能力や内省する力が必要になるためです。
- 語彙や表現力の不足: 感情だけでなく、状況や考えを説明するための適切な語彙が少なかったり、言葉を組み立てて論理的に伝えることに難しさがある場合があります。
- 聴覚情報の処理の難しさ: 耳から入ってくる言葉の情報を、順番に処理したり、意味を理解したりすることに時間がかかったり、苦手意識があったりします。特に、長い話や複数の指示、早口な言葉は聞き取りにくいことがあります。
- 集中力の維持や切り替えの難しさ: 他の刺激に気を取られたり、一つのことに集中し続けることが難しいため、人の話を最後まで聞くことが難しい場合があります。また、自分の考えていたことやしていたことから、急に人の話を聞く姿勢に切り替えることが苦手なこともあります。
- ワーキングメモリ(短期記憶)の容量: 聞いた話を一時的に覚えておき、処理する能力(ワーキングメモリ)の容量が小さい場合、長い話や複雑な話はすぐに忘れてしまったり、処理しきれなかったりすることがあります。
これらの特性があるからといって、お子様が「言いたくない」「聞きたくない」と思っているわけではありません。特性による難しさを理解し、適切なサポートをすることで、お子様の「話す」「聞く」スキルは少しずつ育まれていきます。
気持ちを伝える力を育む具体的な声かけと工夫
お子様が自分の気持ちや考えを言葉で表現できるようになるために、ご家庭で試せる声かけや工夫をご紹介します。
1. 感情に名前をつける手伝いをする
お子様が感じているであろう感情を親が言葉にして提示し、感情語彙を増やすサポートをします。
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具体的な声かけ例:
- 「今、おもちゃが壊れて、悲しい気持ちなんだね」
- 「〇〇ができて、嬉しいね!どんなところが嬉しかった?」
- 「お友達に意地悪されて、腹が立ったんだね」
- 「これはどうすればいいか分からなくて、困っているのかな?」
- 「明日は遠足だから、楽しみだね」
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工夫のポイント:
- お子様が感情を感じているその場で、短い言葉で伝えます。
- お子様の表情や状況を観察し、感情を推測します。
- 肯定的な感情、否定的な感情の両方について言葉にしてあげます。
- 親自身が「お母さん(お父さん)は今、これができてほっとした気持ちだよ」のように、自分の感情を言葉にしてモデルを示します。
2. 感情語彙を増やす工夫を取り入れる
様々な感情を表す言葉を知っていると、自分の気持ちを表現しやすくなります。
- 具体的な工夫:
- 感情カードや絵本: 様々な表情や状況が描かれたカードや絵本を使って、「この子、どんな気持ちだと思う?」などと尋ねてみます。
- 感情リストの作成: 「嬉しい気持ち」「悲しい気持ち」「怒っている気持ち」「困った気持ち」などの項目を作り、それぞれどんな時にそう感じるか、お子様と一緒に話し合って書き出してみます。(例:嬉しい気持ち:褒められた時、好きなものが食べられた時 など)
- 日常の会話: 「あのテレビのキャラクター、今どんな顔してた?どんな気持ちかな?」「このニュースを聞いて、お母さんは少し心配になったよ」のように、日常的に感情にまつわる言葉を使います。
3. 状況と気持ちを結びつける練習をする
「〇〇という状況だったから、△△という気持ちになったんだ」というように、状況と感情の繋がりを理解するサポートをします。
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具体的な声かけ例:
- 「テストで良い点が取れて、嬉しかったんだね。一生懸命勉強したからかな?」
- 「友達に貸してって言われたけど、まだ遊びたかったから、嫌な気持ちだったんだね」
- 「約束の時間に遅れてしまって、お母さんは少し残念に思ったよ」
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工夫のポイント:
- お子様の行動や出来事に対して、「なぜその感情になったのか」を一緒に考えます。
- 原因と結果の繋がりを分かりやすく説明します。
- 親自身が「雨が降ってきたから、予定が変わって少しがっかりしたけど、お家でゆっくりできてよかった気持ちもあるよ」のように、複雑な感情や切り替えを言葉にするモデルを示します。
落ち着いて話を聞く習慣を育む具体的な声かけと工夫
お子様が人の話を最後まで聞き、内容を理解できるようになるために、ご家庭で試せる声かけや工夫をご紹介します。
1. 聞く準備を整える
話をする前に、お子様に「これからお話をする時間だよ」ということを伝え、聞く姿勢になるための準備を促します。
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具体的な声かけ例:
- 「〇〇くん、ちょっといいかな?お母さんのお話を聞いてほしいな」
- 「今から大切なお話をするね。まずはお母さんの顔を見てくれる?」
- 「(遊びに夢中な時)遊びはここまでにして、お母さんのお話を聞く時間にするよ」
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工夫のポイント:
- お子様の名前を呼ぶなど、注意を引いてから話しかけます。
- 可能であれば、視線を合わせられる位置に移動します。
- お子様が他のことに集中している場合は、すぐに聞くことを求めず、少し待つ時間を与えたり、遊びを区切る合図(タイマーなど)を使ったりします。
2. 短く分かりやすく伝える
長い説明や複数の指示は、お子様が聞き取り、理解し、覚えておくことを難しくさせます。
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具体的な声かけ例:
- 「まず、おもちゃを箱に片付けようね。(片付けたら)次はお手てを洗ってね」
- 「今日の夕ご飯はカレーだよ」
- 「明日は、まず歯医者さんに行って、それから公園に行く予定だよ」
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工夫のポイント:
- 一度に伝える情報は一つか二つに絞ります。
- 専門用語や抽象的な表現を避け、具体的で分かりやすい言葉を使います。
- 声のトーンを落ち着かせ、ゆっくり話すことを意識します。
- 必要であれば、ジェスチャーや指差しなどを交えて視覚的な情報も提供します。
3. 聞いたことを確認する
お子様が話を正しく聞けていたかを確認することで、お子様は自分がどこまで理解できたかを知ることができ、大人側は伝わりやすさのヒントを得られます。
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具体的な声かけ例:
- 「お母さん、今なんて言ったかな?もう一度教えてくれる?」
- 「これから何をするか、言ってみてくれる?」
- 「〇〇って言ったんだけど、合ってるかな?」
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工夫のポイント:
- クイズ形式にしたり、「お手伝いありがとう」のように肯定的なフィードバックを加えたりして、お子様が嫌がらないように工夫します。
- もし間違っていても否定せず、「もう一回言ってみようね」など優しく促します。
- 「分かった?」と聞くだけでは、分かっていなくても「分かった」と答えてしまうことがあるため、具体的に内容を言ってもらうようにします。
4. 視覚的なサポートを活用する
耳からの情報だけでなく、目からの情報も加えることで、理解や記憶の定着を助けることができます。
- 具体的な工夫:
- TO DOリスト/やることリスト: 今日の予定や、やるべきことを絵や文字で書き出し、見えるところに貼っておきます。終わったらチェックを入れるようにします。
- タイマー: 「あと〇分で終わりね」「〇分になったら聞く時間だよ」など、時間の区切りを視覚的に示します。
- コミュニケーションボード/絵カード: 伝えたいことや気持ちを表す絵や写真のカードを用意し、それらを指差して伝えてもらうようにします。
- 聞く姿勢のルール: 「話している人の顔を見る」「静かに聞く」「最後まで聞く」など、聞く時のルールを絵や文字で示し、話し始める前に確認します。
継続のための大切な視点
これらの声かけや工夫は、一度試してすぐに劇的な変化が見られるものではないかもしれません。お子様の発達段階や特性に合わせて、焦らず、根気強く続けていくことが大切です。
- 完璧を目指さない: 全ての会話がスムーズにいく必要はありません。「前より少し言えるようになったな」「前より少し聞けるようになったな」といった小さな成長に目を向け、ポジティブな声かけを増やしましょう。
- 子どものペースを尊重する: 無理強いは逆効果になることがあります。お子様が落ち着いて取り組めるタイミングを選び、休息も大切にします。
- 肯定的なフィードバック: 気持ちを言葉にできた時、最後まで話を聞けた時など、できたこと、頑張ったことを具体的に褒めます。「上手に言えたね」「しっかり聞けて偉かったね」など、具体的な行動を褒めることで、お子様は自信を持って次も頑張ろうと思えます。
- 親自身の感情も大切に: コミュニケーションがうまくいかないと、保護者の方も疲れたり、イライラしたりすることがあるかもしれません。ご自身の感情にも気づき、休息を取る、相談するなど、自分を労わることも忘れないでください。
まとめ
発達障害のあるお子様が、自分の気持ちを表現し、相手の話を理解して聞くことは、練習によって少しずつ育まれるスキルです。特性による難しさを理解し、「感情に名前をつける手伝い」「分かりやすい言葉で伝える」「視覚的なサポートの活用」といった具体的な声かけや工夫を日常に取り入れることで、お子様とのコミュニケーションはきっとより豊かなものになります。
この記事でご紹介したヒントが、お子様との日々の会話をサポートし、お子様の「話す」「聞く」力を育む一助となれば幸いです。焦らず、お子様のペースに合わせて、前向きに取り組んでいきましょう。