家庭での役割意識を育む:発達障害の子へのお手伝いを促す声かけと工夫
お子様が成長するにつれて、家庭の中で少しずつお手伝いをお願いする機会が増えてくるかと存じます。お手伝いは、単に家事が片付くだけでなく、家庭の一員としての役割意識を育み、自己肯定感や生活スキルを身につける大切な機会となります。
しかし、発達障害のあるお子様の場合、お手伝いを頼んでも指示が通りにくかったり、すぐに飽きてしまったり、特定の手順にこだわったりと、スムーズに進まない場面も少なくないかもしれません。「どうすればうちの子もお手伝いをしてくれるのだろう」「何度言っても聞いてくれない」と悩んでいらっしゃる保護者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
このページでは、発達障害の特性を踏まえながら、お子様がお手伝いに前向きに取り組めるようになるための具体的な声かけの例や、家庭で簡単に試せる工夫をご紹介します。これらのヒントが、お子様とのコミュニケーションをより円滑にし、お手伝いを通じた成長をサポートするための一助となれば幸いです。
なぜ、お手伝いが難しく感じられることがあるのでしょうか?
発達障害のあるお子様にとって、お手伝いをスムーズに行うことが難しく感じられる背景には、いくつかの発達特性が関係している場合があります。
- 指示の理解・実行の難しさ: 抽象的な指示や複数の指示を同時に聞くことが難しい場合があります。「お部屋をきれいにしてね」といった漠然とした指示では、具体的に何をすれば良いのか分からず、立ち止まってしまうことがあります。
- 段取りや見通しを立てることの苦手さ: お手伝いはいくつかのステップの連続で成り立っています。全体の流れを把握したり、次に何をすれば良いか自分で考えたりすることが苦手な場合、途中で混乱したり、どうしていいか分からなくなったりすることがあります。
- 集中力や持続力の違い: 特定のことに深く集中できる一方で、興味のないことや苦手なことには集中力が続かないことがあります。お手伝いも、お子様の興味や関心と合わない場合、すぐに飽きてしまうことがあります。
- 感覚過敏や鈍麻: 汚れや特定の素材に触れるのが苦手だったり、力加減が難しかったりするなど、感覚の特性がお手伝いの特定の動作を困難にすることがあります。
これらの特性があるからといって、お子様がお手伝いができないわけではありません。特性を理解し、お子様に合ったサポートや声かけを行うことで、お手伝いに取り組みやすくなります。
発達特性を踏まえた具体的な声かけと工夫
お子様がお手伝いに前向きに取り組めるよう、家庭で試せる具体的な声かけと工夫をご紹介します。
1. 指示は「具体的」「短く」「一つずつ」伝える
抽象的な指示では、お子様は何から手をつければ良いか分からなくなってしまいます。何を、どこへ、どのように、といった点を具体的に伝えましょう。
- 声かけの例:
- 「この本を、本棚の右端の空いている場所に戻してね。」(何を、どこへ)
- 「まず、脱いだ靴下を洗濯かごに入れて。それができたら教えてくれるかな?」(一つずつ、ステップ化)
- 「テーブルを拭いてくれる?この布を使って、端から順番に拭いてみよう。」(どのように、順序)
- 工夫:
- 指示する場所や物を指さしながら伝える。
- 身振り手振りを加える。
- 必要であれば、お手本をやって見せる。
2. 見通しを持たせる工夫をする
「終わり」が分からなかったり、全体のステップが把握できなかったりすると、不安になったり、途中で諦めてしまったりすることがあります。お手伝いの「見える化」をしてみましょう。
- 声かけの例:
- 「このお手伝いは、あと〇〇をしたら終わりだよ。」(終わりの見通し)
- 「この絵カードの通りにやってみよう。一つできたらシールを貼ってね。」(ステップの見える化)
- 工夫:
- タスクリストやチェックリストの作成: お手伝いの手順を書き出し、一つ終わるごとにチェックできるようにします。文字での理解が難しい場合は、絵や写真を使います。
- タイマーの活用: 「〇〇分で終わらせようね」など、時間で区切ることで集中を促し、終わりの見通しを持たせます。
3. ポジティブな声かけでモチベーションを高める
できたことや頑張った過程に注目し、具体的に褒めることで、お子様のやる気や自己肯定感を育みます。
- 声かけの例:
- 「ありがとう!靴を揃えてくれたから、玄関がすっきりしたね。助かるよ。」(感謝と具体的な貢献内容)
- 「最後までやりきったね!大変だったと思うけど、頑張ったね。」(過程への承認)
- 「自分からお皿を運んでくれたんだね。〇〇のおかげで準備が早く進んだよ。」(主体的な行動の発見と承認)
- 工夫:
- 結果が完璧でなくても、取り組んだこと自体や、以前よりできるようになった点など、小さな進歩を見つけて言葉にする。
- お手伝いの途中で、頑張っている様子に気づいたら「すごいね!」「順調に進んでいるね」などと声をかける。
4. 選択肢を与えて主体性を促す
複数のお手伝いの中からお子様自身に選ばせることで、「やらされている」という感覚を減らし、主体的に取り組む気持ちを引き出します。
- 声かけの例:
- 「今日の夜ご飯の後のお手伝いだけど、お皿洗いとテーブル拭き、どっちがいいかな?」
- 「洗濯物たたみをお願いしたいんだけど、タオルと靴下、どっちから始める?」
- 工夫:
- 選択肢は多くしすぎず、お子様が無理なく選べる数(2~3つ程度)にします。
- お子様の得意なことや興味のあることに関連するお手伝いを候補に入れると良いでしょう。
5. 環境を整える
お手伝いしやすい物理的な環境を作ることも大切です。
- 工夫:
- 片付け場所を明確にする(おもちゃ箱に写真でラベリングをする、場所ごとに色分けするなど)。
- 使う道具(拭き掃除用の布、ほうきなど)をすぐに手に取れる場所に準備しておく。
- お手伝い中は、気が散るもの(テレビ、ゲームなど)をオフにする。
これらの声かけや工夫は、お子様の発達特性を理解し、無理なくステップを踏めるようにサポートすることを目的としています。すぐに全てがうまくいくわけではなく、試行錯誤が必要な場合もあります。
応用・発展:お手伝いを通じた成長を促すために
- スモールステップで始める: 最初から難しいことや多くの量を求めず、お子様ができることから少しずつ始めてみましょう。「自分の靴を揃える」「食べ終わった食器をシンクに持っていく」など、簡単なことから成功体験を積むことが重要です。
- 失敗を責めない: 上手にできなかったり、途中でやめてしまったりしても、感情的に叱るのではなく、「どうしたらやりやすくなるかな?」「次はこうしてみようか」など、一緒に解決策を考える姿勢を示しましょう。失敗から学ぶことも大切な成長の機会です。
- 継続するためのヒント: 特定の時間や曜日に「お手伝いタイム」を設けるなど、ルーティンに取り入れると習慣化しやすくなります。また、家族みんなで家事をする姿を見せることで、お手伝いは特別なことではなく、家庭の日常であるという認識を育むことができます。
- 将来的な自立に繋がる視点: お手伝いは、将来一人で生活していく上での基盤となるスキル(段取り力、時間管理、責任感など)を育むことに繋がります。目先の結果だけでなく、お子様の長期的な成長を見守る視点を持つことも大切です。
まとめ
発達障害のあるお子様へのお手伝いを促すことは、一筋縄ではいかないと感じる場面もあるかと存じます。しかし、今回ご紹介したように、お子様の特性を理解し、指示を具体的に伝える、見通しを持たせる、ポジティブな声かけを意識する、選択肢を与える、環境を整えるといった工夫を取り入れることで、お子様がお手伝いに取り組みやすくなる可能性は十分にあります。
焦らず、お子様のペースに合わせて、小さな一歩から始めてみてください。できたときには、結果だけでなく、頑張った過程にも注目し、感謝の気持ちを伝えていただけたらと思います。一人で悩まず、これらのヒントが日々のコミュニケーションの一助となり、お子様との関わりがより穏やかで前向きなものになることを願っております。