「なかなか行動できない」を解決:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
発達障害のあるお子様との日々の暮らしの中で、「やろうね」と声をかけてもなかなか行動に移してくれない、宿題や片付けが滞りがちで困っている、といった経験はありませんでしょうか。何度言っても伝わらないと感じ、つい感情的になってしまうこともあるかもしれません。
このページでは、発達障害の特性を持つお子様が、次の行動へスムーズに移ったり、取り組むべき課題を始めたりできるようになるための、具体的で実践的な声かけやご家庭で試せる簡単な工夫についてご紹介します。
なぜ「なかなか行動できない」のか? 発達特性との関係
まず、お子様がすぐに行動に移せない背景には、発達特性が関係している場合があります。これは、お子様が「やる気がない」のではなく、脳の情報処理の特性によるものであることが多いです。
- 見通しを持つことの難しさ: 課題全体の量や、どこから手をつければ良いのかが分からず、途方に暮れてしまうことがあります。
- 注意の切り替えが苦手: 今集中していることから、別の行動へ注意を切り替えるのが難しいことがあります。
- ワーキングメモリの負荷: 指示された内容や手順を頭の中で保持しておくことが苦手な場合があります。複数の指示を同時に処理するのが難しくなります。
- 感覚処理の違い: 環境の音や光、体の感覚などが気になり、行動を始める妨げになることがあります。
これらの特性を踏まえることで、お子様への声かけや環境調整のヒントが見えてきます。
具体的な声かけと家庭でできる工夫
お子様がスムーズに行動できるよう促すために、日常の様々なシーンで試せる声かけや工夫をご紹介します。
1. 指示を出す前、出す時
行動を始める前の声かけや、指示の出し方を少し変えるだけで、お子様が受け取りやすくなります。
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具体的な声かけの例:
- 「〇〇(物)を△△(場所)に片付けようね。」(抽象的な「片付けなさい」よりも具体的に)
- 「まず、この宿題(特定のもの)から始めてみようか。」(何から始めるか明確に)
- 「これが終わったら、次は〜をする時間だよ。」(次の見通しを示す)
- 「あと5分でこれを終わりにしようね。」(時間の区切りを示す)
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家庭でできる工夫:
- 指示を一つずつ出す: 一度に複数の指示を出すのではなく、一つずつ区切って伝えます。一つできたら次の指示を出すようにします。
- 視覚的に示す: やるべきことを絵や写真、短い言葉で書いたリスト、チェックシート、写真付きの手順書などで示します。「見える化」することで、お子様は見通しを持ちやすくなります。
- タイマーやアラームを使う: 行動を始める時間や終える時間をタイマーやアラームで知らせます。時間管理が苦手なお子様にとって、自分で切り替えるより分かりやすくなります。
- 選択肢を与える: 「宿題、まず算数と国語どっちからやる?」のように、いくつかの選択肢を与えることで、自分で決めるという主体性を育みつつ、行動を促せます。
2. 行動中
取り組んでいる最中にも、適切な声かけや工夫で、モチベーションの維持や継続をサポートできます。
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具体的な声かけの例:
- 「集中して取り組めているね。すごいね!」(具体的な行動を褒める)
- 「この問題、よく考えて解けているね。」(プロセスを肯定的に評価する)
- 「あと半分だよ。頑張っているね。」(進捗を伝え、励ます)
- 「疲れてない?少し休憩する?」
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家庭でできる工夫:
- 集中できる環境を作る: 机の上に余計なものを置かない、静かな場所を確保するなど、気が散りにくい環境を整えます。ノイズキャンセリングヘッドホンが有効な場合もあります。
- 休憩時間を確保する: 長時間集中することが難しい場合、短い休憩を挟む計画を立てます。休憩時間には体を動かすなど、リフレッシュできる活動を取り入れます。
- 一緒に取り組む: 最初の数分だけ親御さんが隣に座って一緒に始める、同じ空間で親御さんも別の作業をするなど、お子様が一人ではないと感じられるようにします。
3. 行動が止まってしまった時、なかなか始められない時
課題に直面してフリーズしてしまったり、そもそも始められなかったりする場合の対応です。
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具体的な声かけの例:
- 「どこから始めたらいいかな?一緒に考えてみようか。」(一緒に解決策を探す姿勢)
- 「最初の1問(または1つ)だけ、まずやってみようか。」(スモールステップを提案)
- 「これ(道具や資料)を使うのかな?」(ヒントを出す)
- 「難しいね。ちょっと休憩してから、もう一度やってみようか。」
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家庭でできる工夫:
- タスクを細かく分解する: 大きな課題を、お子様ができそうな小さなステップに分解し、一つずつクリアしていくようにします。
- 成功体験を積ませる: 最初は簡単な課題から始めたり、目標を低めに設定したりして、「できた」という成功体験を積み重ねられるようにします。
- お手本を見せる: 具体的なやり方が分からない場合は、親御さんが実際にお手本を見せたり、一緒にやってみたりします。
4. 行動が終わった時
課題を終えた後の声かけは、次への意欲や自己肯定感につながります。
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具体的な声かけの例:
- 「宿題、全部終わったね!よく頑張ったね!」(完了を明確に伝え、労う)
- 「最後までやり遂げられてすごいね。」(達成を褒める)
- 「これで〇〇(楽しい活動)ができるね。」(行動の結果として良いことがあることを伝える)
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家庭でできる工夫:
- 完了を「見える化」する: チェックリストにチェックを入れる、カレンダーに印をつけるなど、完了したことを視覚的に確認できるようにします。
- 肯定的なフィードバック: 完了したことそのものだけでなく、取り組んだ姿勢や努力の過程も肯定的に伝えます。
応用と継続のヒント
紹介した声かけや工夫は、お子様の特性やその日の状態によって効果が異なることがあります。
- お子様の反応をよく観察する: どのような声かけや工夫が効果があったか、あるいは逆効果だったかを観察し、お子様に合う方法を見つけていきましょう。
- 完璧を目指さない: 最初から全てがうまくいくわけではありません。うまくいかなかった時も、それは失敗ではなく、より良い方法を見つけるためのステップだと捉えましょう。
- お子様と一緒に考える: やるべきことやその手順について、可能であればお子様と一緒に考え、計画を立てることで、主体性が育まれます。
まとめ
発達障害のあるお子様が行動に移るのをサポートするには、お子様の特性を理解し、声かけや環境に少しの工夫を加えることが有効です。抽象的な指示ではなく具体的に伝える、一度に多くのことを求めない、視覚的なサポートを活用するなど、日常で試せることはたくさんあります。
今日から一つでも、気になる声かけや工夫を試してみてください。すぐに大きな変化が見られなくても、諦めずに続けることで、お子様とのコミュニケーションがより円滑で穏やかなものになるはずです。一人で抱え込まず、これらのヒントが日々の助けとなれば幸いです。