ぐちゃぐちゃ…片付けられない悩みに:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
ぐちゃぐちゃ…片付けられない悩みに:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
「何度言っても片付けない」「部屋がいつも散らかっている」
発達障害のあるお子様をお持ちの保護者の方々にとって、片付けや整理整頓に関するお悩みは尽きないものかもしれません。他の子ができているように見えて、「どうしてうちの子はできないのだろう」と、つい感情的になってしまうこともあるのではないでしょうか。
お子様が片付けを苦手とする背景には、発達特性が関係している場合があります。これは、お子様が「やる気がない」わけでも、「わざとやらない」わけでもありません。片付けをスムーズに行うために必要な、いくつかのステップやスキルにつまずきがあるのかもしれません。
この記事では、発達障害のあるお子様が片付けを苦手とする背景にある特性を解説し、ご家庭で今日からすぐに試せる具体的な声かけの例や、実践的な工夫についてご紹介します。お子様とのコミュニケーションが、少しでも穏やかで前向きなものとなるヒントとなれば幸いです。
なぜ片付けが苦手なの?発達特性との関係
片付けは、一見単純な作業に見えますが、実はいくつかの複雑なステップと思考プロセスが必要です。発達障害のあるお子様は、これらのステップの一部、または全てで困難を感じやすいことがあります。
考えられる背景として、以下のような特性が関係していることがあります。
- どこから手をつけて良いか分からない(手順理解・開始の困難): 部屋全体が散らかっているのを見ると、圧倒されてしまい、何から始めれば良いか分からなくなります。「片付けて」という指示だけでは、具体的な行動に繋がりにくいことがあります。
- 物の「定位置」を認識しにくい(分類・空間認知の困難): 物のカテゴリ分けが難しかったり、「これはここにしまう」という空間的なルールを理解したり覚えたりすることが苦手な場合があります。
- 集中力が続かない(注意機能の困難): 片付けの途中で他の刺激に気を取られたり、飽きてしまったりして、最後までやり遂げることが難しいことがあります。
- 段取りを立てるのが苦手(実行機能の困難): どのように進めれば効率的か、どのくらい時間がかかるかなど、片付けのプロセスを計画したり実行したりすることが苦手な場合があります。
- 視覚的な情報過多に弱い(感覚過敏・鈍麻): 散らかった状態の視覚的な情報が多すぎて、混乱したり不快に感じたりすることがあります。逆に、多少散らかっていても気にならないこともあります。
これらの特性は、お子様にとって片付けを「難しい」「やりたくない」ものにしてしまう要因となり得ます。保護者の方がこの背景を理解することで、お子様への見方や声かけも変わってくるでしょう。
家庭ですぐに試せる具体的な声かけと工夫
お子様の片付けをサポートするために、ご家庭で実践できる具体的な声かけと工夫をご紹介します。お子様の特性や状況に合わせて、できることから取り入れてみてください。
1. 片付けを始める前に:「何を」「どこに」を明確にする
「片付けて」という指示は、お子様にとっては抽象的すぎて伝わりにくい場合があります。まずは、「何を」「どこに」戻すのかを具体的に示しましょう。
具体的な声かけの例:
- 「まずは、この絵の具を棚に戻そうね。」(何を・どこに)
- 「ブロックは、この箱に入れる時間だよ。」(何を・どこに・時間)
- 「床に置いてある本を、本棚のこの場所に立てようね。」(何を・どこに・具体的な行動)
家庭でできる工夫:
- 物の定位置を決める: おもちゃの種類ごとに箱を分けたり、本を置く場所を決めたりと、物の「お家」を決めてあげましょう。一緒に物の定位置を決めるのも良い方法です。
- 収納場所を分かりやすくする: 収納ボックスに写真やイラスト、文字でラベルを貼ります。「ブロック」「ミニカー」「本」など、中身がすぐに分かるようにします。
- 一度に片付ける量を減らす: 部屋全体ではなく、「まずはこのテーブルの上だけ」「このコーナーだけ」など、範囲を限定して指示します。終わったら次の場所へ進むように促します。
2. 片付けの最中:プロセスをサポートする
片付けを始めた後も、お子様が途中でつまずいたり、集中が途切れたりすることがあります。プロセスを細分化し、段階的なサポートを心がけましょう。
具体的な声かけの例:
- 「次は、ぬいぐるみさんたちをベッドに戻そうか。」(次のステップを伝える)
- 「あと3つおもちゃを片付けたら、休憩しようね。」(見通しと区切りを示す)
- 「このブロック、うまく箱に入ったね!上手!」(肯定的な言葉かけ)
- 「ここまでできたね。次はここをやってみよう。」(できた部分を認め、次のステップを促す)
家庭でできる工夫:
- 視覚的な「やることリスト」を使う: 片付けのステップを絵や写真、文字で書いたリストを作り、一つ終わるごとにチェックをつけられるようにします。
- タイマーを使う: 「〇分だけ片付けよう」と時間を決め、タイマーを使います。時間内に終わらなくても、「〇分がんばれたね」と過程を褒めることが大切です。
- 一緒に片付ける: 最初は「一緒にやろう」と声をかけ、手本を見せたり、共同作業として取り組んだりします。徐々に一人でできる部分を増やしていきます。
- 声かけのトーン: 感情的にならず、穏やかで落ち着いたトーンで声をかけるように意識します。
3. 片付けが終わった後:できたことを認める
片付けができたときは、結果だけでなく、片付けに取り組んだ「行動」や「努力」を具体的に褒めることが重要です。成功体験を積み重ねることで、次への意欲につながります。
具体的な声かけの例:
- 「引き出しの中に靴下を全部しまえたね!すごい!」(具体的な行動を褒める)
- 「タイマーが鳴るまで、一生懸命片付けていたね。がんばったね!」(努力の過程を褒める)
- 「おもちゃを全部お家に戻してくれてありがとう。部屋がスッキリしたね。」(感謝と、片付けた結果の良い変化を伝える)
家庭でできる工夫:
- ご褒美システム: 片付けができたらシールを貼るなど、簡単なご褒美システムを取り入れることも有効な場合があります。(ただし、物に頼りすぎず、内発的な動機づけも大切にします)
- 片付いた状態を一緒に喜ぶ: 片付いた部屋を見て、「気持ちいいね」「探し物がすぐ見つかるね」など、片付いた状態の良い点を一緒に言葉にして確認します。
応用と継続のヒント
ご紹介した声かけや工夫は、片付けだけでなく、身支度や宿題の準備など、他の「やるべきこと」への取り組みにも応用できます。
- 完璧を目指さない: 最初から完璧な片付けを期待せず、少しでもできたことを認め、スモールステップで進めることが大切です。
- 定期的に見直す: 収納方法や定位置は、お子様の成長や物の変化に合わせて見直しましょう。
- 保護者自身もゆとりを: 保護者の方が焦ったりイライラしたりしていると、それがお子様に伝わってしまうことがあります。完璧を目指さず、「今日はここまででOK」とするなど、保護者自身の気持ちにゆとりを持つことも大切です。
まとめ
発達障害のあるお子様が片付けを苦手とすることには、様々な発達特性が関係しています。これは、決して「怠けている」わけではありません。
「何を」「どこに」を具体的に伝える声かけや、物の定位置を決める、視覚的なサポートを取り入れるといった工夫は、お子様が片付けのプロセスを理解し、スムーズに進めるための大きな助けとなります。
できたときには、結果だけでなく、片付けに取り組んだ「行動」や「努力」を具体的に褒めることを忘れずに行ってください。
これらのヒントが、お子様との片付け時間を少しでもポジティブなものに変え、ご家庭でのコミュニケーションをより円滑にする一助となれば幸いです。一人で抱え込まず、お子様のペースに合わせて、できることから試してみてください。