「こだわりが強い」特性との向き合い方:発達障害の子とのコミュニケーションを円滑にする声かけと工夫
発達障害のあるお子様の「こだわり」に、どう向き合っていますか?
「こうと決めたら絶対譲らない」「少しの変化も許せない」「特定のやり方しか受け付けない」など、発達障害のあるお子様との日々の関わりの中で、「こだわりが強い」と感じてコミュニケーションに難しさを感じていらっしゃる保護者の方は少なくありません。
特に、予測できない状況やルーティンからの逸脱があった際に、強い不安や混乱から感情的になってしまったり、頑なになって指示が全く通らなくなったりすることに、途方に暮れてしまうこともあるかもしれません。
こうした「こだわり」は、お子様の発達特性からくるものであり、決して意地悪やわがままで行っているわけではありません。お子様にとって、こだわりは安心感を得たり、世界の予測可能性を高めたりするために必要な場合が多くあります。
この記事では、発達障害のあるお子様が持つ「こだわり」の背景にある特性を理解した上で、家庭で実践できる具体的な声かけや、コミュニケーションを円滑にするためのちょっとした工夫をご紹介します。一人で抱え込まず、これらのヒントが少しでもお役に立てば幸いです。
なぜ「こだわり」が強くなるのか?発達特性との関連
発達障害、特に自閉スペクトラム症(ASD)の特性として、「限定された興味や関心」「反復的な行動や活動」「変化に対する抵抗」などが挙げられます。これらが「こだわり」として現れることにつながります。
- 物事の見え方の特性: 全体像を掴むより、細部や特定の情報に強く注意が向きやすいことがあります。そのため、自分の関心のあることや、一度決めたやり方、お気に入りの物などに深く集中し、そこから離れることが難しくなります。
- 予測困難への不安: 未来の見通しを持つことや、急な変更に対応することが苦手な場合があります。そのため、決まった手順や習慣を守ることで安心感を得ようとします。少しの変化でも、お子様にとっては大きな予測不能要素となり、不安や混乱を引き起こすことがあります。
- 感覚の特性: 特定の感覚(音、手触り、味など)に過敏だったり鈍麻だったりすることが、特定の服しか着られない、特定の食べ物しか受け付けないといったこだわりにつながることもあります。
これらの特性があるため、お子様が「こだわり」を示す背景には、強い理由や必要性があることを理解することが、コミュニケーションの第一歩となります。
こだわりによる困りごとと具体的な声かけ・工夫
ここでは、こだわりによって生じやすい具体的な困りごとを想定し、それぞれに対する声かけと工夫の例をご紹介します。
困りごと1:決まった手順やルーティンが崩れると混乱・パニックになる
朝の支度や帰宅後の流れなど、普段と違う手順になったときに強く抵抗したり、感情的になったりすることがあります。
背景にある特性: 予測困難への不安、見通しを持つことの難しさ
具体的な声かけと工夫:
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事前に変更を予告する(視覚的なサポートも活用)
- 声かけ例: 「今日の午後は、いつもの公園じゃなくて、図書館に行く予定だよ。」「明日の朝は、いつもより10分早く家を出るから、△△を先にやろうね。」
- 工夫: スケジュールや予定をイラストや写真、文字で書いた「やることリスト」などで視覚化しておき、変更がある場合は事前にその部分を書き換えたり、付箋を貼ったりして視覚的に知らせます。変更がある場合は、なぜ変更になるのか、次にどうなるのかを具体的に伝えます。
- ポイント: 変更を伝えるのは、直前ではなく、お子様が落ち着いている時に、時間をかけて行います。お子様が納得したり、心構えをしたりする時間が必要です。
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代替案を提示する(選択肢を示す)
- 声かけ例: 「今日は〇〇ができなくなったけど、代わりに△△をしてみるのはどう?」「いつもと違う道だけど、この道を歩いてみようか。新しい発見があるかもしれないよ。」
- 工夫: 完全にルーティンをなくすのではなく、一部だけ変えたり、代替となる活動を用意したりします。お子様自身に代替案を選ばせることで、自分で状況をコントロールできている感覚を持たせることができます。
- ポイント: 提示する選択肢は、2〜3個に絞ると選びやすくなります。
困りごと2:特定の物や場所に強く執着し、手放せない・そこから離れられない
お気に入りのタオルやぬいぐるみ、特定の場所(例:スーパーの特定の通路)から離れるのを嫌がる、特定の服しか着ない、特定の食べ物しか食べない、などが挙げられます。
背景にある特性: 安心感を得るための手段、感覚の特性、限定された興味・関心
具体的な声かけと工夫:
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こだわりを受け止める・共感する
- 声かけ例: 「そのタオルがあると落ち着くんだね。」「〇〇君にとって、その場所は特別なんだね。」「この服のサラサラした感じが好きなんだね。」
- 工夫: 頭ごなしにやめさせるのではなく、まずはお子様のこだわりやそれに伴う気持ちを肯定的に受け止めます。なぜそれが良いのか、お子様の理由を聞いてみることも有効です。
- ポイント: 共感する言葉は、お子様の安心感につながります。否定せずに一旦受け止める姿勢が大切です。
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妥協点を見つける・代替の安心材料を探す
- 声かけ例: 「お家ではそのタオルを使っていいけど、お出かけの時はこの小さなタオルを持っていくのはどうかな?」「今日はこの場所まで行ったら、次の場所へ移動しようね。」「今日の晩御飯は〇〇だけど、少しだけ△△(好きな食べ物)も一緒に用意できるよ。」
- 工夫: 譲れないこだわりと、少しなら妥協できるこだわりを見極めます。特定の物に執着する場合は、代替となる似た感触の物を用意したり、持ち運びやすいミニチュア版を用意したりします。特定の場所へのこだわりは、タイマーを使ったり、「あと〇回ジャンプしたら次の場所へ行くよ」のように終わりを明確にしたりします。
- ポイント: 全てを変えようとせず、お子様にとって許容できる範囲で少しずつ変化を取り入れることが重要です。
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肯定的な側面を伝える
- 声かけ例: 「〇〇君は、一度好きになったものをすごく大切にするんだね。素敵なことだよ。」「これ!って決めたものを集中して楽しめるのは、〇〇君のすごいところだね。」
- 工夫: こだわりによって得られているお子様のポジティブな側面(集中力、探求心、物を大切にする気持ちなど)に注目し、言葉にして伝えます。
- ポイント: こだわり自体を否定せず、お子様の良い特性として捉え直すことで、お子様の自己肯定感を育むことにもつながります。
困りごと3:自分のやり方や意見に強く固執し、他者の提案や協調を受け入れにくい
遊び方や課題への取り組み方など、自分のやり方に強くこだわり、他の方法を試そうとしなかったり、友達や家族との協調が難しくなったりします。
背景にある特性: 認知の柔軟性の低さ、一度覚えたやり方への安心感
具体的な声かけと工夫:
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複数の選択肢を具体的に提示する
- 声かけ例: 「このパズル、〇〇君のいつものやり方もすごく良いね。他に、こんな方法でもできるみたいだよ。ちょっとだけ試してみない?」「このブロック、高く積むのも楽しいけど、こんな風に長くつなげてみるのも面白いよ。」
- 工夫: 「他のやり方もあるよ」と漠然と伝えるのではなく、「Aというやり方」と「Bというやり方」のように具体的に示します。可能であれば、それぞれのやり方のメリットを簡潔に伝えます。
- ポイント: あくまで提案として、「試してみる?」という形で伝えます。強制にならないように注意が必要です。
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「なぜそうするのか」理由を分かりやすく説明する
- 声かけ例: 「この順番で片付けると、次に使う時に分かりやすいんだよ。」「みんなで一緒にこのルールで遊ぶと、もっと楽しくなるんだ。」
- 工夫: 新しいやり方やルールを受け入れてほしい場合、その理由を論理的かつ簡潔に説明します。特に、お子様自身のメリットになる理由(例:早く終わる、もっと面白くなる、次に困らないなど)を示すと伝わりやすいことがあります。
- ポイント: 理屈で理解しようとするお子様には有効ですが、感情が優位になっている時は響きにくいこともあります。お子様の状態に合わせて使い分けます。
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譲れない点と譲れる点を本人と一緒に考える
- 声かけ例: 「〇〇君が絶対にこうしたい!って思うのは、この部分かな?」「この中で、少しだけ違うやり方でもいいかな、って思うところはある?」
- 工夫: 交渉が必要な場面では、お子様と対話しながら、どこは譲れないのか、どこなら譲歩できるのかを一緒に整理します。お互いの希望をすり合わせるプロセスを経験させます。
- ポイント: 全てを思い通りにするのは難しいことを伝えつつも、お子様の意見に耳を傾け、可能な範囲で尊重する姿勢を示します。
応用・発展:こだわりとの上手な付き合い方
ご紹介した声かけや工夫は、お子様の特性や状況に合わせて調整することが大切です。全てが一度にうまくいくわけではありませんし、こだわりの中には「これは譲れない」というものもあって当然です。
- 完璧を目指さない: 「こだわりをなくす」のではなく、「こだわりと上手に付き合う」ことを目標にします。お子様にとって安心の基盤となっているこだわりを無理に奪おうとすると、かえって混乱や不安を招くことがあります。
- スモールステップで試す: 大きな変化を求めるのではなく、「少しだけ違う方法を試してみる」「いつもより1分だけ早く切り上げてみる」など、小さく始めて成功体験を積み重ねることが効果的です。
- 肯定的な関わりを増やす: こだわりが強く出ている時だけでなく、落ち着いている時や、少しでも変化に対応できた時に、「自分で切り替えができたね!」「いつもと違うことにも挑戦できたね、すごい!」など、具体的な行動を褒める声かけを増やします。肯定的な経験が、新たな挑戦への意欲につながります。
- 親自身の気持ちを大切に: お子様のこだわりに付き合う中で、疲れたり、イライラしたりすることもあると思います。一人で抱え込まず、パートナーや信頼できる人に話を聞いてもらったり、相談機関を利用したりすることも大切です。親自身が心穏やかでいることが、お子様との良いコミュニケーションにつながります。
まとめ
発達障害のあるお子様の「こだわり」は、その特性ゆえに生じるものであり、お子様が世界を理解し、安心するための重要な手段であることが多くあります。
コミュニケーションを円滑にするためには、まずそのこだわりを頭ごなしに否定せず、背景にあるお子様の気持ちや特性を理解しようとすることが出発点となります。
そして、日々の生活の中で、
- 事前に見通しを伝える・変更を予告する(視覚的なサポートも活用)
- 妥協点を見つける・代替案を提示する
- こだわりを受け止める・肯定的な側面に注目する
といった具体的な声かけや工夫を、お子様の様子を見ながら柔軟に取り入れていくことが有効です。
すぐに劇的な変化が見られなくても、小さく試して、お子様の良い変化や努力を見逃さずに肯定的に関わることを続けていくことで、お子様とのより穏やかで、お互いを尊重できるコミュニケーションを築いていくことができるでしょう。この記事でご紹介したヒントが、その一助となれば幸いです。