頑なな「拒否」に困ったら:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
はじめに:お子様の「拒否」に戸惑っていませんか?
子育てをしていると、「ご飯食べたくない」「お風呂入りたくない」「宿題やりたくない」など、お子様から「嫌だ」「やりたくない」といった「拒否」の言葉や態度に出会うことは少なくありません。特に、発達障害のあるお子様の場合、この「拒否」が強く、頑なになりがちなため、どのように対応すれば良いのか分からず、お困りの保護者の方もいらっしゃるかもしれません。
何度も同じことを言っても伝わらなかったり、少しでも無理強いしようとするとパニックになったり、ついには保護者の方も感情的になってしまったり...。このような状況が繰り返されると、お互いに疲弊してしまい、コミュニケーションを取ること自体が億劫になってしまうこともあるかもしれません。
この記事では、発達障害のあるお子様の「拒否」という行動の背景にある特性を理解し、保護者の方が冷静に対応するための具体的な声かけや、家庭ですぐに実践できる簡単な工夫をご紹介します。お子様とのやり取りが、少しでも穏やかでスムーズになるヒントとして、お役立ていただければ幸いです。
なぜ発達障害のある子には「拒否」が多いのか?背景にある特性の理解
お子様の「拒否」の背景には、いくつかの発達特性が関係していることがあります。これらの特性を理解することが、適切な対応を考える上で第一歩となります。
- 見通しを持つことの難しさ: これから何が起こるのか、自分が何を求められているのかの見通しが持てないと、不安を感じやすく、新しい行動や予定外の変更を拒否することがあります。「なぜこれをやるのか」「いつまで続くのか」「これが終わったらどうなるのか」といった見通しが曖昧な場合、「分からないから嫌だ」という気持ちになりやすいのです。
- 感覚過敏や感覚鈍麻: 特定の感覚(音、光、肌触り、味など)に過敏であったり、逆に鈍麻であったりすることが、特定の行動を拒否する理由になることがあります。例えば、特定の服の肌触りが苦手で着替えを拒否する、騒がしい場所に行くことを拒否する、といったケースです。
- 興味の偏りやこだわり: 特定の活動(ゲーム、特定の遊びなど)に強く興味を持ち、それ以外の活動への切り替えが難しい、あるいは特定のやり方や順番に強いこだわりがあり、それから外れることを拒否することがあります。
- ワーキングメモリの特性: 一度に多くの指示を処理したり、複数の情報を頭の中で保持したりすることが苦手な場合があります。「あれもこれも」と指示されると混乱し、「もう無理」と拒否してしまうことがあります。
- 状況判断や相手の意図理解の難しさ: なぜその行動が必要なのか、相手がどういう意図で言っているのかを瞬時に理解することが難しい場合があり、「意味が分からないからやりたくない」と感じることがあります。
これらの特性から、「拒否」は単なる反抗ではなく、お子様が困っている、あるいは不安や混乱を感じているサインとして現れていると考えられます。
具体的な声かけと家庭でできる工夫
それでは、お子様が「拒否」の姿勢を見せたときに、どのように対応すれば良いのでしょうか。具体的な声かけの例と、家庭でできる工夫をご紹介します。
1. なぜ「拒否」するのか、背景を探る声かけと姿勢
お子様がいきなり「嫌だ!」と言ったとき、すぐに理由を問いただすのではなく、まずは状況や表情を観察し、何が嫌なのか、何に困っているのかを推測してみましょう。
- 声かけ例:
- 「〇〇、何か嫌なことがあるのかな?」
- 「〜するの、どこか難しそうに見えるけど、どう?」
- 「(少し時間を置いて)さっきの〇〇のことなんだけど、もしよかったらどんな気持ちだったか教えてくれる?」
- 工夫:
- お子様が言葉で表現するのが苦手な場合は、感情カードや表情の絵などを使って、気持ちを指さして教えてもらう方法も有効です。
- 「〇〇が嫌なんだね」と、一旦お子様の気持ちを受け止める姿勢を示すことが大切です。すぐに解決策を提示するのではなく、「聞いているよ」というメッセージを伝えましょう。
2. 見通しを持たせる声かけと工夫
次に何をするのか、いつまで行うのかといった見通しを示すことは、お子様の不安を減らし、スムーズな行動につながります。
- 声かけ例:
- 「まず、このお着替えをしようね。それが終わったら、朝ごはんの時間だよ。」(具体的なステップと次の予定を伝える)
- 「宿題、あとこのページだけだよ。このページが終わったら、おしまいにしようね。」(終わりの見通しを示す)
- 「今からお出かけする準備をするよ。準備ができたら、公園に出発できるね。」(行動の目的と結果を示す)
- 工夫:
- 視覚的なスケジュール: 一日の流れや、これから行う活動を絵や写真、文字で示したスケジュール表を家庭内の分かりやすい場所に貼っておきましょう。お子様自身がスケジュールを確認できるようになることで、見通しを持つ力が育まれます。
- タイマーの使用: 「あと〇分で片付けようね」「タイマーが鳴ったらおしまいです」のように、時間を視覚的に示すタイマーを使うことで、活動の終わりの見通しを持たせやすくなります。
3. 指示を分かりやすく伝える声かけと工夫
抽象的な指示や一度に多くの指示は、お子様にとって混乱のもととなり、結果として拒否につながることがあります。具体的で分かりやすい指示を心がけましょう。
- 声かけ例:
- 「絵本を元の場所に戻してください。」(「片付けなさい」よりも具体的)
- 「まず、右足に靴下を履きましょう。次に、左足に靴下を履きましょう。」(複数の行動を分解して一つずつ伝える)
- 「この青い箱の中に、このブロックを入れてね。」(色や場所を具体的に示す)
- 工夫:
- ワンステップ指示: 一度に一つの指示を出すことから始め、お子様が慣れてきたら少しずつステップを増やしていくようにしましょう。
- ジェスチャーや物を使う: 言葉だけでなく、身振り手振りや、これから使う物を見せながら指示を出すと、より伝わりやすくなります。
- 肯定的な言葉で伝える: 「走るな」ではなく「歩こうね」、「触らない」ではなく「見るだけね」のように、してほしい行動を肯定的な言葉で伝えましょう。
4. 選択肢を示す声かけ
全てを指示通りに行わせようとするのではなく、お子様にある程度の選択肢を与えることで、「自分で決めた」という気持ちになり、行動への抵抗感が減ることがあります。
- 声かけ例:
- 「お風呂、先に入る?それともご飯が先がいい?」
- 「着替え、この赤い服と青い服、どっちから着る?」
- 「宿題、算数からやる?それとも国語から始める?」
- 工夫:
- 無理のない範囲で、お子様が自分で決められる選択肢(通常は2つ程度が良いとされています)を用意します。
- ただし、選択肢がない場合や、危険に関わる行動については、選択肢を提示することはできません。その場合は、理由を丁寧に説明することが重要です。
5. 感情に寄り添う声かけ
「拒否」の背景に不安や嫌な気持ちがある場合、まずその感情に寄り添う声かけが有効です。
- 声かけ例:
- 「〜するのが嫌なんだね、嫌な気持ちなんだね。」(お子様の感情を言葉にする)
- 「難しそうに見えるんだね。一緒にやってみようか。」(共感とサポートの提案)
- 「前は上手にできたのに、今日はうまくいかないのかな。大変だったね。」(過去の経験や努力に言及し、共感する)
- 工夫:
- 感情を受け止めた後、無理強いするのではなく、少し休憩を挟む、やり方を変えてみる、といった別の提案につなげると良いでしょう。
- 保護者自身が感情的にならないよう、深呼吸するなど、冷静さを保つ工夫も必要です。
応用・発展:状況に応じた対応と保護者のセルフケア
上記でご紹介した声かけや工夫は、様々な状況で応用できます。お子様の特性やその時の状況に合わせて、柔軟に取り入れてみてください。
- 頑なな拒否が続く場合: 一度指示や要求から離れ、お子様が落ち着くのを待ちましょう。落ち着いてから再度、短い言葉で分かりやすく伝えてみたり、別の方法を提案してみたりします。
- 危険な行動の場合: 「ダメ!」「やめなさい!」と感情的に伝えるのではなく、「危ないからやめようね。代わりにこっちで遊ぼうか」のように、禁止と同時に代替案を提示することを心がけましょう。
- 肯定的な行動を増やす: 「拒否」以外の場面で、お子様が指示に従えたとき、難しいことに挑戦しようとしたときなど、ポジティブな行動を具体的に褒める機会を増やしましょう。「〇〇できたね!」「〜しようとして偉いね!」といった声かけは、お子様の自己肯定感を育み、指示を受け入れやすくなる土壌を作ります。
そして何より大切なのは、保護者の方自身のセルフケアです。お子様の「拒否」に毎日向き合うことは、大きなエネルギーを消耗します。「どうして分かってくれないの」と辛くなることもあるでしょう。一人で抱え込まず、配偶者や家族、支援者などに相談したり、自分の時間を持ったりする工夫も大切です。完璧を目指さず、「今日はこれだけできたらOK」と、目標を小さく設定することも有効です。
おわりに
発達障害のあるお子様とのコミュニケーションは、時に難しさを伴います。「拒否」という行動もその一つかもしれません。しかし、その背景にあるお子様の特性を理解し、今回ご紹介したような具体的な声かけや家庭での工夫を根気強く試していくことで、少しずつ変化が見られることがあります。
すぐに全てがうまくいくわけではないかもしれませんが、お子様を理解しようと努める姿勢や、穏やかな声かけは、確実にお子様との信頼関係を築く助けとなります。
この記事が、お子様とのコミュニケーションをより良くするための、そして保護者の方が一人で抱え込まずに前向きに取り組むための、小さな一歩となることを願っています。