「早くして!」の前に試すこと:発達障害の子の身支度・片付けをスムーズにする声かけと工夫
朝の身支度や寝る前の片付け、ついつい「早くして!」と言ってしまいますか?
お子様の朝の身支度がなかなか進まなかったり、遊んだおもちゃを片付けられなかったりする場面で、つい「早くして!」「早く片付けなさい!」といった言葉が出てしまうことはありませんでしょうか。発達障害のあるお子様との生活では、このような日常的なルーティン行動に難しさを感じることが少なくないかもしれません。
指示を具体的に伝えているつもりでも伝わりにくかったり、特定の行動を始めるまでに時間がかかったり、途中で気が散ってしまったりすることは、発達特性と関連している場合があります。お子様も、やりたくないわけではないのに、どう始めて、どう終わらせれば良いのか分からずに立ち止まっているのかもしれません。
この記事では、お子様との身支度や片付けの時間を、お互いにとって少しでもスムーズで穏やかなものにするための具体的な声かけのヒントと、家庭で手軽に試せる簡単な工夫をご紹介します。一つでも参考になる情報があれば幸いです。
なぜ身支度や片付けが苦手なことがあるのか:発達特性との関連
身支度や片付けといった一連の行動は、私たち大人が無意識に行っているように見えても、実はいくつかのステップから成り立っており、様々な能力が必要です。例えば、 * 今から何をすべきか(目的の理解) * そのために必要な行動は何か(段取りを考える) * どの順番で行うか(計画性) * 一つ一つの行動を完了させる(実行機能) * 途中で他のことに気を取られず集中する(注意の維持) * 終わりの見通しを持つ(時間感覚)
といった要素が含まれます。発達障害のあるお子様の場合、これらの能力の発達に特性があることから、身支度や片付けといった「自分で順序立てて行動し、完了させる」ことが苦手な場合があります。
例えば、 * 指示全体(例:「部屋を片付けなさい」)が抽象的すぎて、何から手をつければ良いか分からない * 複数の指示(例:「歯磨きをして、顔を洗って、パジャマに着替えて」)を一度に聞くと混乱する * 時間感覚が掴みにくく、残り時間が分からないため急げない、または終わりの見通しが持てない * 一つのことに集中すると、次の行動に切り替えが難しい * 視覚的な情報(部屋の散らかり具合全体)を処理するのが難しい
このような特性があることを理解すると、「どうしてやらないの!」と感情的になるのではなく、「どうすればお子様がやりやすくなるか」という視点に立てるようになります。
今日から試せる!身支度・片付けをスムーズにする声かけと工夫
お子様の発達特性を踏まえ、具体的な声かけや環境の調整を行うことで、身支度や片付けはずっとスムーズに進むようになります。ここでは、具体的なシーンを想定した声かけ例と工夫をご紹介します。
1. 何から始めるか分からない様子の時
指示が抽象的すぎたり、一度にたくさんのステップを求められたりすると、お子様はどこから手をつけて良いか分からずフリーズしてしまうことがあります。
具体的な声かけの例:
- 「まず、パジャマの上から着てみようか。」(最初の一歩を具体的に示す)
- 「おもちゃ箱に、この車を入れるところから始めよう。」(何をどこに片付けるか具体的に示す)
- 「今日の朝ごはんはパンだよ。その前に、歯ブラシを持って洗面所に行ってみよう。」(次の行動と場所を具体的に伝える)
工夫の例:
- 「最初のステップ」を明確にする: 声かけで具体的な最初の一歩を示すことに加え、「まずはこれだけやろうね」とゴールを小さく区切る。
- やることリスト(視覚支援): 朝の身支度なら「顔を洗う」「歯を磨く」「着替える」といったステップを絵や文字でリスト化し、できたものにチェックを入れる。片付けなら「〇〇を箱に入れる」「〇〇を棚に戻す」といった具体的な行動リストを作る。
なぜ有効か: 抽象的な指示を具体的な行動ステップに分解することで、お子様は何をすれば良いかが明確になり、行動に移りやすくなります。視覚的なリストは、やるべきことの全体像と順番を理解する助けになります。
2. 途中で気が散って止まってしまった時
身支度や片付けの途中で、別のおもちゃに気を取られたり、窓の外を眺めたりして作業が止まってしまうことはよくあります。これは注意の維持や切り替えの難しさに関連していることがあります。
具体的な声かけの例:
- 「〇〇くん、今は靴下を履く時間だよ。靴下に集中してみようね。」(今すべきことに注意を戻す)
- 「おもちゃの車、カッコいいね。片付けが終わったら、またゆっくり見ようか。」(関心を示しつつ、やるべきことと切り分ける)
- 「あと2つ、おもちゃを箱に入れたらおしまいだよ。」(終わりの見通しを具体的に示す)
工夫の例:
- タイマーの活用: 「あと〇分で着替えを終わらせようね」「タイマーが鳴るまで片付けよう」など、時間を視覚化・聴覚化する。時間感覚が掴みにくいお子様にとって、時間の流れを理解する手助けになります。
- 片付け場所の固定: おもちゃや衣類など、物の定位置を決めて「これはここ」と明確にする。迷う時間を減らし、スムーズに片付ける習慣をつけやすくします。
- 「見ないで進む」工夫: 気を散らす原因になるものが視界に入りにくい場所で作業を行う、カーテンを閉めるなどの簡単な環境調整を行う。
なぜ有効か: 途切れた注意を穏やかに引き戻し、今行うべき行動に焦点を当てる手助けをします。タイマーや定位置は、時間や空間の見通しを与え、自己調整を促します。
3. 特定の行動を促したい時(例:服を着る、歯磨きをする)
どうしてもやりたくない、億劫に感じる特定の行動がある場合、無理強いではなく、促すための工夫が必要です。
具体的な声かけの例:
- 「今日の服、どっちにしようか?青いシャツと、赤いTシャツ、どっちがいい?」(限定された選択肢を提示)
- 「歯ブラシさんに『こんにちは』しようか。」(遊びの要素を取り入れる)
- 「着替えられたら、お気に入りの絵本を読もうね。」(肯定的な結果を伝える)
工夫の例:
- 「ファースト・アンド・ゼン」(まずは〇〇、それから△△): 「まず靴下を履こう、それからテレビを見ようね」のように、嫌な(難しい)行動の後に、好きな(簡単な)行動を組み合わせる。
- 成功体験を積み重ねる: 簡単なことでもできたら大いに褒める。「靴下、自分で履けたね!すごい!」など具体的に褒めることで、次の行動への意欲につながります。
- 行動の分解と練習: 難しい行動(例:ボタンを留める、歯磨きの仕上げ磨き)は、細かくステップを分けて、親子で一緒に練習する時間を設ける。
なぜ有効か: 選択肢を与えることで自己決定感を育み、行動への抵抗感を減らします。遊びや肯定的な結果と結びつけることで、行動を楽しい、または価値のあるものとして捉えやすくなります。成功体験は自己肯定感を高め、次の挑戦へのモチベーションになります。
大切なのは、完璧を目指さないことと、お子様を理解しようとする姿勢
ご紹介した声かけや工夫はあくまでヒントです。お子様の特性やその日の状況によって効果は異なりますし、常にうまくいくとは限りません。大切なのは、一度に全てを変えようとせず、できることから少しずつ試してみることです。
そして、「どうしてうちの子はできないのだろう」と悩むのではなく、「この子は今、何に困っているのだろう」という視点でお子様を観察してみてください。お子様の行動の背景にある発達特性への理解が深まるほど、適切なサポートの方法が見えてきます。
お母様自身が、「うまくできなくても大丈夫」「試行錯誤しながら一緒に成長していこう」という気持ちを持つことが、お子様とのコミュニケーションをより穏やかなものにする第一歩です。
まとめ:身支度・片付けの時間を心地よくするために
発達障害のあるお子様との身支度や片付けの時間は、毎日の小さな戦いのように感じられることもあるかもしれません。しかし、お子様が困っているポイントを理解し、声かけや環境を少し工夫することで、お子様の「できた!」という経験を増やし、お母様自身の負担も減らすことができます。
- 指示は具体的に、一度に一つずつ。
- やることリストやタイマーなど、視覚的なサポートを活用する。
- 行動の最初の一歩や終わりの見通しを明確にする。
- できないことではなく、できたことに注目し、具体的に褒める。
- つい「早くして!」と言ってしまう前に、お子様の困り感に寄り添う。
これらのヒントが、お子様との日常的なコミュニケーションを円滑にし、お互いにとってより良い時間を作るための一助となれば幸いです。一人で抱え込まず、試せることから始めてみてください。