「もっと褒めてあげたい」と思ったら:発達障害の子のポジティブな行動を増やす声かけと工夫
日々の慌ただしさの中で、お子様の気になる行動にばかり目がいき、「ダメ」「早く」「違う」といった否定的な声かけが多くなってしまうと感じることはありませんか。本当はもっとお子様の良いところや頑張っているところを見つけて、たくさん褒めてあげたい、そう思っている方もいらっしゃるかもしれません。
発達障害のあるお子様とのコミュニケーションでは、特性への理解に基づいた関わり方がとても大切になります。特に、ポジティブな行動に焦点を当て、それを促す声かけや工夫は、お子様の自己肯定感を育み、親子の関係を良好に保つ上で非常に有効です。
この記事では、発達障害のあるお子様のポジティブな行動を効果的に増やしていくための、具体的な声かけの例と、ご家庭で今日からすぐに試せる簡単な工夫をご紹介します。これらのヒントが、お子様との穏やかで前向きなコミュニケーションを実現するための一助となれば幸いです。
なぜポジティブな声かけや工夫が大切なのでしょうか?
発達障害のあるお子様は、感覚の特性や、出来事を捉える力の特性から、周囲からの否定的な声かけや叱責に人一倍敏感に反応することがあります。また、抽象的な褒め言葉や、時間差のある評価は理解しにくい場合もあります。
このような特性を持つお子様に対して、ポジティブな行動に注目し、それを具体的に、タイムリーに伝えることは、以下のような理由から重要です。
- 行動の学習促進: 良い行動をした直後に具体的に褒められることで、「この行動は良いことなんだな」と行動とその結果(褒められた、嬉しかった)を結びつけて理解しやすくなります。これにより、望ましい行動が定着しやすくなります。
- 自己肯定感の向上: 頑張りや得意なこと、できたことに目を向けられることで、「自分はできるんだ」「認められているんだ」という肯定的な自己イメージを育むことができます。これは、新しいことへの挑戦意欲や困難を乗り越える力に繋がります。
- 信頼関係の構築: ポジティブな声かけは、お子様にとって「お母さんは自分の良いところを見てくれている」「自分の味方だ」という安心感を与えます。これは、親子間の信頼関係を深める基盤となります。
- 親自身の視点の変化: ポジティブな側面に意識的に目を向けることは、関わる側の視点も変えます。お子様の可能性や成長に気づきやすくなり、子育てへの肯定的な気持ちを持つことにも繋がります。
ポジティブな行動を増やす具体的な声かけ例
どのような状況で、どのような声かけをすれば良いのでしょうか。具体的な例をいくつかご紹介します。
1. 行動そのものを具体的に褒める
単に「すごいね」「えらいね」と言うだけでなく、何が、どのようにすごかったのかを具体的に伝えます。
- 状況: おもちゃを自分から片付け始めたとき
- 声かけ例: 「わあ、〇〇くん! おもちゃを箱に全部入れたね! きれいに片付いたね、ありがとう!」
- ポイント: どの行動(おもちゃを箱に入れる)の、どの側面(全部、きれいに)を褒めているのかを明確にします。感謝の気持ちを伝えるのも効果的です。
- 状況: 宿題を終えたとき
- 声かけ例: 「△△(科目名)の宿題、今日の分、全部終わらせたんだね! 座って集中して取り組んでいたね、すごいね!」
- ポイント: 完了したという事実だけでなく、そこに至るまでの過程(座って集中したことなど)に注目して褒めることも重要です。
2. 努力やプロセスを評価する
結果だけでなく、そこに至るまでの努力や頑張りに焦点を当てて声をかけます。
- 状況: 難しい問題に挑戦しているとき
- 声かけ例: 「うーん、難しい問題だね。でも、諦めないで一生懸命考えているね。その頑張り、お母さん嬉しいよ。」
- ポイント: 結果が出る前でも、挑戦している姿勢や粘り強さを評価します。
- 状況: 不器用ながらも何かを作っているとき
- 声かけ例: 「ハサミを使うのが少し難しいみたいだけど、ゆっくり丁寧に、最後まで自分でやろうとしているね。根気強く取り組む△△くん、素敵だよ。」
- ポイント: 完璧でなくても、本人が努力している点に注目し、その努力自体を認めます。
3. 小さな変化や頑張りを見つける
大きな変化でなくても、普段できないことが少しできた、昨日より良くなった、といった小さな進歩を見つけて伝えます。
- 状況: 着替えに時間がかかっていた子が、いつもより少し早くできたとき
- 声かけ例: 「今日の着替え、いつもより早くできたんじゃないかな? ズボンを自分で最後まで上げたね!すごい、今日の目標クリアだね!」
- ポイント: 過去との比較や、本人にとっての「少しの頑張り」に注目します。具体的な行動(ズボンを上げた)を指摘することで、何が褒められたのかを分かりやすくします。
- 状況: 苦手なことに挑戦したとき
- 声かけ例: 「~するの、△△くんは少し苦手だったよね。でも、今日はやってみようと挑戦したね!その一歩が素晴らしいよ。」
- ポイント: 苦手なことへの挑戦は大きな勇気が必要です。結果よりも挑戦したこと自体を高く評価します。
4. 感謝を伝える
お子様の行動が自分や家族の助けになったときに、具体的な感謝の気持ちを伝えます。
- 状況: 食事の準備を手伝ってくれたとき
- 声かけ例: 「□□(お皿の名前)をテーブルまで運んでくれてありがとう。△△くんが手伝ってくれたから、早く準備できたよ、助かった!」
- ポイント: 「ありがとう」だけでなく、何をしてくれて、それがどう役立ったのかを具体的に伝えます。
5. 肯定的な期待を伝える
「あなたならできる」という信頼のメッセージを伝えます。ただし、これはあくまで期待であり、プレッシャーにならないよう、結果が出なくても努力を認める姿勢が大切です。
- 状況: 新しい習い事や課題に挑戦する前
- 声かけ例: 「初めてのことに挑戦するのはドキドキするね。でも、〇〇くんの集中力と頑張り屋さんのところがあれば、きっと大丈夫だよ。やってみようとする気持ちが素晴らしいね。」
- ポイント: できる根拠となるお子様の長所や特性に触れながら期待を伝えます。結果よりも「挑戦しようとする気持ち」を評価します。
ポジティブな行動を促す家庭でできる簡単な工夫
声かけだけでなく、環境を整えたり、関わり方を少し工夫したりすることでも、お子様のポジティブな行動を引き出しやすくなります。
1. 行動目標を「見える化」する
何をしてほしいのか、どのような状態になれば良いのかを、言葉だけでなく視覚的に示します。
-
工夫例:
- TODOリストやチェックリスト: 朝の支度や寝る前にやることなどを、絵や文字でリストにし、できたらチェックをつけられるようにします。
- 手順書: 手洗いや歯磨き、片付けの手順などをイラスト付きで壁に貼っておきます。
- タイマーの使用: 「タイマーが鳴るまでにここまでやろう」と時間的な見通しをつけやすくします。
-
ポイント: 目標が明確になり、自分で達成できたことが視覚的にわかるため、達成感や自己肯定感に繋がりやすいです。
2. 成功体験を積み重ねられるようにする
最初から高いハードルを設定せず、お子様の「できる」レベルから始めて、小さな成功を積み重ねられるようにサポートします。
-
工夫例:
- 課題をスモールステップに分ける: 部屋全体の片付けが難しければ、「まずブロックだけ片付けよう」「次に絵本を棚に戻そう」のように、細かく分けて一つずつクリアできるようにします。
- 得意なことから任せる: お手伝いなどは、お子様が得意なことや興味があることからお願いしてみると、スムーズに取り組め、成功体験に繋がりやすいです。
-
ポイント: 「できた!」という肯定的な経験を重ねることが、次の行動への意欲や自信を育みます。
3. ポジティブな面に意識的に目を向ける
ついつい気になる行動(ネガティブな行動)に目が行きがちですが、意識して「良い行動」を探す習慣をつけます。
-
工夫例:
- 「〇〇できたノート」: お子様ができたこと、頑張ったことを書き出すノートを作る。親が書き出しても良いですし、お子様と一緒に振り返っても良いでしょう。
- 「今日の良かったこと」タイム: 寝る前などに、今日あった良いことや頑張ったことを親子で話し合う時間を持つ。
- ポジティブ観察リスト: 親が意識的に褒めるための「今日見つける良いこと」のリストを心の中で作ってみる。
-
ポイント: 親自身の意識が変わると、お子様への声かけも自然と肯定的なものに増えていきます。
4. 行動の直後に褒める
良い行動が見られたら、時間をおかずにすぐに声かけをします。
-
工夫例:
- 良い行動を見つけたら、その場ですぐに「今、△△したね!すごい!」と声をかけます。
- すぐに言葉で伝えるのが難しい場合は、お子様が理解しやすい方法(例:ジェスチャー、視覚的なサイン)を決めておき、それを使います。
-
ポイント: 発達特性として、時間や状況の繋がりを把握するのが難しい場合があるため、行動と評価をセットで理解できるよう、タイムリーさが重要です。
継続するためのヒント
ご紹介した声かけや工夫は、すぐに劇的な変化をもたらすものではないかもしれません。しかし、根気強く続けていくことで、お子様の中に少しずつポジティブな変化が見られるはずです。
- 完璧を目指さない: 全ての行動を褒める必要はありません。まずは「これだけは必ず褒めよう」という目標を一つ決めてみるだけでも良いでしょう。
- 親子で楽しむ: ポジティブな声かけは、親子の楽しいコミュニケーションの時間でもあります。「すごいね探し」をゲーム感覚で楽しんでみるのも良いかもしれません。
- 自分自身も労う: ポジティブな側面に目を向ける努力をしているご自身も大切にしてください。「今日も頑張ったね」と、ご自身を労う時間を持つことも忘れないでください。
まとめ
発達障害のあるお子様とのコミュニケーションにおいて、ポジティブな行動を増やしていくための声かけや工夫は、お子様の成長を促し、親子の絆を深めるための有効な手段です。
「具体的であること」「タイムリーであること」「努力やプロセスも評価すること」を意識しながら、今回ご紹介した声かけの例や家庭でできる工夫を、ぜひ日常生活の中で試してみてください。
お子様の小さな一歩や頑張りを見つけることは、簡単なことではない時もあるかもしれません。しかし、そうした一つ一つの積み重ねが、お子様の「できる」を増やし、自信を育んでいく力となります。
この記事が、日々のコミュニケーションに悩む保護者の方々にとって、少しでも前向きな気持ちで取り組むきっかけとなれば幸いです。一人で抱え込まず、できることから、少しずつ実践してみてください。