「触られるのが苦手」「特定の音が嫌」…感覚の困りごとを和らげる:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
お子様との日々のコミュニケーションの中で、「どうしてこの服は着てくれないのだろう」「特定の音が聞こえると機嫌が悪くなる」「触られるのをひどく嫌がる」といった、感覚に関する困りごとを感じたことはありませんか。発達障害のあるお子様は、感覚の感じ方が独特で、時にそれが本人や周囲にとって大きなストレスとなることがあります。
これらの感覚の特性を理解し、声かけや環境を少し工夫することで、お子様の困りごとを和らげ、穏やかな日常を送るヒントが見つかるかもしれません。一人で悩まず、具体的な方法を知り、少しずつ試してみましょう。
発達特性と感覚の感じ方
発達障害のあるお子様の中には、感覚の感じ方に定型発達のお子様とは異なる特性を持つことがあります。これは、感覚情報を脳が処理する方法の違いによるものと考えられています。
- 感覚過敏: 特定の感覚に対して過度に敏感に反応する特性です。例えば、小さな音が大音量に聞こえたり、特定の素材の服が肌に触れる感覚が耐え難かったり、特定の匂いや味が苦手だったりします。予期しない刺激に強く反応し、パニックになったり、その場から逃げ出したくなったりすることもあります。
- 感覚鈍感: 特定の感覚に対する反応が乏しい特性です。痛みや温度に気づきにくかったり、体がぶつかっても平気だったり、強い刺激(大きな音、体を大きく動かすことなど)を求めたりすることがあります。
これらの特性は、お子様の「わがまま」や「好き嫌い」ではなく、脳の機能的な違いによるものです。感覚の困りごとが、お子様の行動や感情、コミュニケーションに大きく影響している可能性があることを理解することが第一歩です。
具体的な困りごとシーンへの声かけと工夫
お子様の感覚の困りごとには様々な形がありますが、ここではいくつかの代表的なシーンを取り上げ、具体的な声かけや家庭でできる工夫をご紹介します。
シーン1:特定の素材やタグのある服が着られない、触られるのが苦手
お子様が特定の素材の服や、服についているタグ、縫い目などを嫌がったり、家族に触られるのを急に避けたりすることがあります。これは、肌に触れる感覚が不快であったり、予想外の接触に驚いてしまったりするためです。
具体的な声かけ例:
- 「この服のチクチクが嫌なんだね。辛いね。」(共感を示す)
- 「今日着る服は、この肌触りが良さそうなのにしてみようか。」(選択肢を提示)
- 「背中をトントンして大丈夫? それとも、そっと肩に手を置く方が良いかな?」(感覚の種類や強さを確認し、お子様に選択肢を与える)
- 「急に触るとびっくりしちゃうかなと思って、声をかけてみたよ。今からちょっとだけお顔を拭くね。」(見通しを伝え、了解を得る)
声かけのポイント:
- お子様の「嫌だ」という感覚を否定せず、「そうか、チクチクするんだね」「びっくりしたね」など、共感の言葉で受け止めます。
- 感覚の苦手さがお子様にとってどれだけ辛いかを想像し、寄り添う姿勢を示します。
- どうしてほしいか、どのような触り方なら大丈夫かなど、具体的にお子様に確認してみることも有効です。無理強いはせず、選択肢を与えます。
家庭でできる工夫:
- 衣類: タグは全て取る、縫い目が外側に出ている服を選ぶ、特定の肌触りの素材(綿100%など)に限定するなど、お子様が心地よく着られる服を探します。事前に水通しをして肌触りを柔らかくすることも試せます。
- 接触: 突然触るのではなく、必ず声かけをしてから触れる習慣をつけます。「肩に手を置くね」「手を繋いで良い?」など、具体的に伝えます。お子様が好む触り方(強く握る、軽く触れるなど)や、触られても平気な体の部位があるか観察し、尊重します。
- 事前準備: 美容院でのカットや病院での診察など、体に触れられることが予想される場面については、事前に写真や絵カードで見通しを伝えたり、触られる場所や内容を具体的に説明したりして、心の準備を促します。
シーン2:特定の大きな音や予期しない音が苦手
掃除機やドライヤーの音、工事の音、救急車のサイレン、お店のアナウンスなど、特定の大きな音や予期しない音に強く反応し、耳を塞いだり、泣き出したり、その場から逃げ出そうとしたりすることがあります。
具体的な声かけ例:
- 「大きな音が聞こえて、びっくりしたね。怖かったね。」(感情を言葉にして共感)
- 「これは工事の音だよ。ドンドンドンドンって音がするね。」(何の音か具体的に伝える)
- 「今から掃除機をかけるよ。音が大きくなるけど大丈夫かな? イヤホンをする? それとも違う部屋に行く?」(見通しを伝え、対処法を提示)
- 「花火の音がドーンって鳴ったね。大丈夫だよ、お母さんがそばにいるよ。」(安心させる)
声かけのポイント:
- 音への反応は、単なる「怖がり」ではなく、音が脳に過剰な刺激として伝わっている可能性があることを理解します。
- 不安や恐怖の感情に寄り添い、安心できる言葉をかけます。「大丈夫だよ」だけでなく、なぜ音が鳴っているのか、いつ終わるのかなど、可能な範囲で見通しを伝えると安心に繋がることがあります。
- お子様自身が音への対処法(耳を塞ぐ、その場を離れるなど)を選べるように促します。
家庭でできる工夫:
- 環境調整: 音源から距離を取る、窓を閉める、普段からノイズキャンセリング機能付きのヘッドホンやイヤーマフを家や外出時に使えるように準備しておくなど、音の刺激を物理的に減らす工夫をします。
- 事前準備: 掃除機や洗濯機をかける時間、チャイムが鳴る可能性がある時間など、大きな音が発生する可能性があることについて事前に伝えます。「そろそろ掃除機かける時間だよ」と予告するだけでも違います。
- 代替策: 外出先で予期しない大きな音に遭遇した場合に備え、お子様が好きなおもちゃや本を持ち歩き、気が紛れるようにすることも有効です。
シーン3:味覚や嗅覚の偏りが強く、食事が進まない
特定の食感、味、匂いのものが全く食べられなかったり、逆に特定の味付けのものしか食べられなかったりすることがあります。これも感覚特性の一つとして現れることがあります。
具体的な声かけ例:
- 「この野菜のブツブツした食感が苦手なんだね。無理して食べなくて良いよ。」(苦手な感覚を受け止める)
- 「今日のご飯は、いつものお味噌汁と、この新しいおかずがあるよ。新しいおかずは、まず匂いを嗅いでみる? 触ってみる?」(見通しを伝え、スモールステップを提示)
- 「このお肉は、いつもの柔らかいのとは違う、ちょっと噛みごたえがあるね。」(食感など、具体的な感覚を言葉で表現する手助けをする)
- 「一口だけ、スプーンに乗せてみる? 見るだけで良いよ。」(小さなステップから始める)
声かけのポイント:
- 「わがまま」や「偏食」と決めつけず、感覚の過敏さや鈍感さから食べられるものが限られている可能性があることを理解します。
- 無理強いせず、一口も食べられなくてもお子様を責めないことが大切です。
- 食材の見た目、匂い、触感、味など、具体的な感覚の特徴を言葉で伝え、お子様自身が感覚を理解する手助けをします。
家庭でできる工夫:
- 段階的な提示: 苦手な食材は、まずは食卓に並べるだけ、次に触ってみる、匂いを嗅いでみる、舐めてみる、一口だけ食べてみる、と段階を踏んで慣らしていきます。
- 調理法の工夫: 苦手な食感にならないように食材を小さく切る、柔らかく煮る、ミキサーにかけるなど、調理法を工夫します。味付けも、お子様が食べ慣れたものに近づけたり、刺激の少ないものを選んだりします。
- 環境調整: 食事の際に強い匂いがしないように換気する、視覚情報が多いと混乱する場合はシンプルな食器を使うなども試せます。
- 代替: どうしても食べられないものが多い場合は、栄養バランスを補うためにサプリメントや栄養補助食品を検討することも必要ですが、まずは食べられる範囲で栄養を摂れる工夫をします。
応用と継続のためのヒント
ご紹介した声かけや工夫はあくまで一例です。お子様の感覚特性は一人ひとり異なりますし、同じお子様でも日によって状況は変わることがあります。
- お子様をよく観察する: どのような状況で、どのような感覚刺激に対して、どのように反応しているかを細かく観察します。何が苦手で、何なら大丈夫なのかを把握することが、効果的な声かけや工夫のヒントになります。
- お子様と一緒に考える: 可能であれば、お子様自身に「これが嫌なんだね、どうしたら大丈夫かな?」「これが好きみたいだけど、もっとどうしたい?」などと尋ね、一緒に解決策を探ります。お子様自身が自分の感覚を理解し、対処法を身につけていく手助けになります。
- 完璧を目指さない: 全ての感覚の困りごとがすぐに解決するわけではありません。少しでもお子様が楽になる、安心して過ごせる時間が増えることを目指しましょう。できなかったことよりも、できたこと、試してみたことを肯定的に捉えることが大切です。
- 専門家への相談: 家庭での工夫だけでは難しい場合や、お子様の困りごとが日常生活に著しい影響を与えている場合は、医師、作業療法士、言語聴覚士、心理士などの専門家や、地域の相談機関に相談することを検討してください。より専門的な視点からのアドバイスやサポートが得られます。
まとめ
発達障害のあるお子様とのコミュニケーションにおいて、感覚の特性に由来する困りごとは少なくありません。しかし、それは「わがまま」ではなく、感覚の感じ方の違いからくるものです。
この記事でご紹介した具体的な声かけや家庭でできる工夫は、お子様の感覚の困りごとを和らげ、安心して過ごせる時間や場所を増やすことにつながります。共感の姿勢を示し、見通しを伝え、具体的で分かりやすい言葉を使うこと、そして物理的な環境を調整したり、代替策を用意したりすることが有効です。
すぐに全てがうまくいくわけではなくても、お子様の特性を理解しようとするその姿勢が、お子様にとって何よりの安心材料となります。焦らず、根気強く、お子様のペースに合わせて、できることから一つずつ試してみてください。この記事が、皆様とお子様のより良いコミュニケーションのヒントとなれば幸いです。