「食べない」「時間がかかる」…食事の困りごとを減らす:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
食事の時間が穏やかになるヒント
お子様との食事の時間は、親御様にとって喜びであると同時に、悩みの種となることも少なくありません。特に、発達障害のあるお子様の場合、「食べない」「食べるのにとても時間がかかる」「特定の物しか受け付けない」といった食事に関する困りごとが生じやすく、毎日の食事がストレスになっているというお話をよく伺います。
どう声をかけたら良いのか分からず、つい感情的になってしまったり、食事の時間が親子の対立の場になってしまったりすることもあるかもしれません。一人で抱え込まず、少しでも食事の時間を穏やかに、そしてお子様にとっても安心できる時間にするための具体的なヒントを一緒に見ていきましょう。
この記事では、発達特性が食事に与える影響を踏まえながら、今日から家庭で試せる具体的な声かけや、食事環境に関する簡単な工夫をご紹介します。
なぜ食事に困りごとが生じやすいのか?発達特性との関連性
発達障害のあるお子様にとって、食事は単に栄養を摂る行為だけでなく、様々な感覚情報や社会的なルールが複雑に関わる時間です。食事の困りごとの背景には、以下のような発達特性が関係していることがあります。
- 感覚過敏・鈍麻: 特定の食材の味、匂い、舌触り、温度、あるいは食器の感触などに過敏に反応したり、逆に鈍麻で食べ物への関心が薄かったりすることがあります。これが偏食や食わず嫌いにつながることがあります。
- 注意の特性: 食事中に気が散りやすく、食べるという行為に集中できないため、時間がかかったり、途中で席を立ってしまったりすることがあります。
- 遂行機能の特性: 食事の準備から「食べる」という一連の動作の手順を理解したり、段取りを立てたりすることが難しい場合があります。また、「いつまで食べるか」という時間感覚が掴みにくいこともあります。
- こだわりの強さ: 食べる物、食器、座る場所、食べる順番などに強いこだわりがあり、それが崩れると食事を受け付けなくなったり、混乱したりすることがあります。
- 見通しの立たなさへの不安: 食事の始まりや終わり、次に何が起こるかといった見通しが立たないことに不安を感じ、落ち着いて食事ができないことがあります。
これらの特性を理解することで、お子様の食事中の行動に対する見方を変え、より適切な声かけや工夫を考えるヒントが得られます。
食事の困りごとへの具体的な声かけと工夫
ここでは、具体的なシーンを想定し、今日から試せる声かけや家庭での工夫をご紹介します。
シーン1: 食べるのを始めたがらない時
食卓についても、なかなか箸を持たなかったり、ぼーっとしてしまったりすることがあります。
考えられる特性: 遂行機能の特性(行動開始の難しさ)、注意の特性(他のことに気を取られている)、感覚の準備ができていない。
具体的な声かけ例:
- 「ごはんの時間だよ。まずはお箸を持ってみようか。」(スモールステップで促す)
- 「テーブルの上にある〇〇(例: お皿)を触ってみよう。どんな感じ?」 (感覚に働きかける)
- 「今日のメニューは〇〇だよ。これは△△の味がするんだ。ちょっと匂いを嗅いでみようか。」(具体的な情報を提供し、興味を引く)
- 「時計の長い針が△のところに来たら食べ始めるよ。」(視覚的に開始時間を分かりやすく示す)
家庭でできる工夫:
- 開始の合図を決める: 「いただきます」の合図や、特定の音楽、タイマーなど、食事の始まりを分かりやすく示します。
- 最初に一口だけ促す: 「まずは一口だけ食べてみよう」と目標を小さく設定し、達成感を促します。
- 視覚的な手がかり: ランチョンマットを敷く、食器の配置を決めるなど、テーブルの上が食事モードであることを視覚的に伝えます。
- 感覚的な準備: 食事の前に手を洗う、テーブルを拭くといった一連の動作をルーティン化し、食事への切り替えをスムーズにします。
シーン2: 食べるのにとても時間がかかる時
一口食べるのに時間がかかったり、途中で動きが止まってしまったりして、食事が長時間に及ぶことがあります。
考えられる特性: 注意の特性(集中力の維持が難しい)、遂行機能の特性(時間感覚の把握、行動の維持)、感覚過敏・鈍麻(口の中の感覚への反応)。
具体的な声かけ例:
- 「今、お口の中に〇〇が入っているね。次はもぐもぐしてみようか。」(具体的な行動を促す)
- 「このお肉、美味しいね!どんな味がする?」 (食事に意識を戻す)
- 「あと、このお皿の物だけ食べたら終わりだよ。」(終わりの見通しを示す)
- 「時計の長い針が△のところまで食べようね。頑張ったら、食後に〇〇できるよ。」(具体的な時間目標と、後の楽しみを示す)
家庭でできる工夫:
- タイマーを活用する: 「あと〇分で終わりだよ」「この一口は〇分以内に食べよう」など、視覚的に残り時間を示すことで、時間感覚をサポートします。ただし、タイマーを急かす道具として使うのではなく、あくまで目安やゲーム感覚で使うのがポイントです。
- 適切な量の提供: 最初から大盛りではなく、お子様が無理なく食べきれる量を盛り付けます。食べきれたら褒め、必要であればおかわりを促します。
- 食事中の刺激を減らす: テレビを消す、おもちゃを片付けるなど、食事に集中できる環境を作ります。
- 休憩を挟む: あまりに時間がかかる場合は、「一度休憩しようか。△分経ったらまた座ろうね。」と、短い休憩を挟むことも有効です。
シーン3: 特定の物しか食べない(偏食)時
色々な食材があるにも関わらず、いつも同じ物ばかり食べたがったり、特定の味や食感の物を頑なに拒否したりすることがあります。
考えられる特性: 感覚過敏・鈍麻、こだわりの強さ、変化への苦手意識。
具体的な声かけ例:
- 「今日のお味噌汁には、新しい具材が入っているよ。△△っていうんだ。どんな匂いがするかな?」 (新しい物への警戒心を和らげる)
- 「この野菜、□□(好きな食材)と一緒に食べてみようか。」(好きな物と組み合わせて安心感を与える)
- 「無理に全部食べなくてもいいよ。今日は一口だけ、味を確かめてみようか。」 (小さな目標を設定し、成功体験を積み重ねる)
- 「これはお母さんが子どもの頃によく食べてたんだよ。美味しいんだよ。」(親御さんの経験談を共有する)
家庭でできる工夫:
- 新しい食材は少量から: 新しい食材は、ほんの一口、あるいは舐めることから始めます。無理強いせず、お子様のペースに合わせます。
- 調理法を工夫する: 苦手な食材でも、切る形を変える、細かく刻む、好きな味付けにするなど、調理法を変えることで受け入れやすくなることがあります。
- 視覚的な安心感: いつも使う食器やカトラリー、座る場所を変えないなど、安心できる環境を維持します。
- 食育活動を取り入れる: 一緒に野菜を育てたり、料理を手伝ってもらったりすることで、食材への興味や親近感が湧くことがあります。
- 食品提示のルールを決める: 「新しい食べ物は、いつも食べる物と一緒に、必ず一口分だけお皿に入れる」といったルールを決めることで、お子様に見通しを持たせることができます。
シーン4: 食事中に集中できず席を立つ時
食べかけなのに立ち上がって遊び始めたり、ウロウロしてしまったりすることがあります。
考えられる特性: 注意の特性、多動性、感覚探索行動(落ち着かない)。
具体的な声かけ例:
- 「ご飯は座って食べる時間だよ。お椅子に戻ろうね。」(行動のルールを明確に伝える)
- 「ご飯を食べたら、後で一緒に〇〇(好きな遊び)をしようね。」(食後の楽しみを提示し、切り替えを促す)
- 「今はご飯を食べる時間。お椅子に座って、モグモグすることに集中しようね。」(「今すべきこと」を具体的に伝える)
- 「残りあと△分だよ。食べ終わったら、おもちゃで遊べる時間になるよ。」(時間と行動の関連付けを示す)
家庭でできる工夫:
- 食事時間を区切る: ダラダラと続かないよう、「食事時間は〇分まで」とタイマーなどで明確に区切りを設定します。
- 座りやすい環境: 足がブラつかないようにフットレストを設置したり、安定した椅子を用意したりするなど、座りやすい環境を整えます。
- 事前に声かけ: 食事が始まる前に、「ご飯の時間になったら、座って食べるよ」と予告しておきます。
- 物理的な境界線を設ける: 可能であれば、食事中はダイニングスペースから出られないように、簡易的なゲートなどを検討することも有効な場合があります。
応用と継続のためのヒント
ご紹介した声かけや工夫はあくまで一例です。お子様の特性やその日の状況によって、有効な方法は異なります。
- お子様の様子を観察する: どんな時に困りごとが起こりやすいか、どんな声かけや工夫が効果的かを日頃から観察し、記録しておくと役立ちます。
- スモールステップで試す: 一度にたくさんの変化を取り入れようとせず、一つか二つの声かけや工夫から始めてみましょう。
- 完璧を目指さない: 全ての食事を完璧に、と意気込む必要はありません。できたこと、うまくいったことに目を向け、親子で一緒に喜ぶことを大切にしましょう。
- 肯定的な言葉を使う: 「〜しなさい」という指示だけでなく、「〜しようね」「〜できるかな?」など、お子様を応援するような、肯定的な言葉を意識して使います。
- 専門家への相談も検討する: あまりにも困りごとが多い場合や、お子様の成長や健康に影響が出ている場合は、小児科医、管理栄養士、作業療法士、言語聴覚士、あるいは地域の相談機関などに相談することも検討してみてください。専門家からのアドバイスが、解決の糸口になることもあります。
まとめ
発達障害のあるお子様との食事は、時に大きな困難を伴うことがあります。しかし、その背景にある発達特性を理解し、お子様に合った具体的な声かけや家庭での環境調整を行うことで、食事の時間をより穏やかで負担の少ないものに変えていくことは可能です。
焦らず、一つずつ、お子様のペースに合わせて試してみてください。うまくいかない日があっても落ち込まず、できた小さな一歩を大切に積み重ねていくことが重要です。
この記事でご紹介したヒントが、親御様とお子様にとって、食事の時間を少しでも心地よいものにするための一助となれば幸いです。一人で悩まず、使えるヒントを取り入れながら、前向きに日々のコミュニケーションに取り組んでいきましょう。