「宿題が進まない」悩みに:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
宿題の時間になると、親子でため息をついてしまうことはありませんか。何度声をかけてもなかなか始めなかったり、始めてもすぐに集中力が切れてしまったり。「どうしてこんなに時間がかかるのだろう」「もっとスムーズにできないものか」と、悩みを抱えている保護者の方は少なくないと思います。
発達障害のあるお子様の場合、宿題に取り組む上で特有の難しさがあることがあります。指示の理解、集中力の維持、行動の切り替え、時間管理といった認知機能の特性が、宿題というタスクと向き合う上でハードルとなることがあるためです。そのため、一般的な声かけや促し方ではうまくいかず、かえって親子の間に摩擦が生じてしまうこともあります。
この記事では、発達障害のあるお子様の「宿題が進まない」という悩みに対し、家庭でできる具体的な声かけや工夫をご紹介します。お子様の特性を理解し、親子ともに無理なく宿題の時間を乗り越えるためのヒントとして、ぜひ参考にしていただけたら幸いです。
なぜ宿題が進まないのか?発達特性との関連性
まず、なぜ宿題が進まないのか、考えられる発達特性との関連性について少し触れておきます。お子様が抱える困難の背景を理解することで、適切な対応が見えてくることがあります。
- 指示理解の困難: 抽象的な指示や一度に多くの指示を聞き取ることが難しい場合、宿題の内容や手順が把握できず、どこから手をつければ良いか分からなくなります。「宿題をやりなさい」といった漠然とした声かけでは、行動に移せないことがあります。
- 実行機能の苦手さ: 計画を立てる、優先順位を決める、行動を開始する、中断した後に再開するといった一連の行動(実行機能)に難しさがあると、宿題というまとまったタスクを自分で進めるのが困難になります。
- 集中力の維持や切り替えの困難: 興味のあることには集中できても、そうでないことにはすぐに気が散ってしまう、一つのことにこだわりすぎて次に移れない、といった特性も宿題の進行を妨げます。
- ワーキングメモリ(短期記憶)の容量: 宿題の手順や、解いている途中の情報を一時的に記憶しておくことが苦手な場合、途中で混乱したり、同じ間違いを繰り返したりしやすくなります。
- 感覚過敏・鈍麻: 特定の音に過敏で周りの音が気になって集中できない、座っている姿勢が落ち着かない、特定の筆記用具の感触が苦手、といった感覚特性が影響することもあります。
これらの特性が複合的に絡み合い、宿題が「嫌なもの」「難しいもの」と感じられ、取り組むこと自体に抵抗が生まれることもあります。
宿題をスムーズに進めるための具体的な声かけと工夫
ここからは、具体的なシーンを想定して、試せる声かけや家庭での工夫をご紹介します。
1. 宿題を「始めるまで」が大変なとき
声かけの例:
- 「今日の宿題は何かな?連絡帳を見てみようか。」
- まず宿題の内容を確認するステップから一緒に始めます。
- 「今日の宿題は、これとこれとこれだね。どれから始めようか?」
- 宿題全体を把握させ、自分で選択する機会を与えます。選択肢を狭めると選びやすくなります。
- 「まず、国語の音読だけやってみようか。」
- 最初の一歩を具体的な小さな行動に限定することで、取りかかりやすくします。
- 「宿題やる時間のタイマー、一緒に押してみよう。」
- 時間を意識させ、行動開始のきっかけとします。
家庭での工夫:
- 宿題の時間を固定する: 毎日同じ時間に宿題に取り組む習慣をつけると、行動の切り替えがスムーズになることがあります。
- 宿題の場所を決める: リビングのこの机、自分の部屋のこの場所など、気が散りにくい、宿題に集中しやすい場所を用意します。
- 始める前のルーティンを作る: 「席に着く」「鉛筆と消しゴムを用意する」「連絡帳を見る」など、宿題を始める前に行う一連の動作を決めておくと、スイッチが入りやすくなります。
- やることリストを視覚化する: 宿題の内容を書き出し、終わったらチェックをつけられるようにすると、全体の量や進捗が分かりやすくなります。
2. 宿題中の「集中が続かない」「席を立ってしまう」とき
声かけの例:
- 「あとこのページが終わったら、少し休憩しようか。」
- 具体的な区切りを示すことで、見通しを持たせ、集中を持続するモチベーションにします。
- 「静かに座っててすごいね。この問題、一緒に考えてみようか?」
- 肯定的な注目を与えつつ、そっと寄り添い、タスクに戻る手助けをします。
- 「体のエネルギーが余ってるのかな?少し立って伸びをしてみようか。」
- 体の動きが必要な場合は、それを認めた上で短い休憩を提案します。
- 「気が散るものがないか、周りを見てみようか。」
- 自分で環境に気づき、調整することを促します。
家庭での工夫:
- 短い休憩を計画的に挟む: 集中が切れやすい時間に合わせて、5分程度の休憩をあらかじめ組み込んでおきます。「ポモドーロテクニック」のように「25分集中+5分休憩」などを試すのも良いでしょう。
- 集中できる環境調整: 机の上に宿題に関係ないものを置かない、壁に向かって座る、パーテーションを使うなど、視覚的な刺激を減らす工夫をします。ノイズキャンセリングイヤホンや耳栓が有効な場合もあります。
- 座り心地の良い椅子やフットレストを使う: 体の感覚が気になって集中できない場合は、座る環境を調整します。バランスボールなども効果的な場合があります。
- BGMを活用する: 無音だと落ち着かない、逆に音が気になるといった特性に合わせて、集中用の音楽(歌詞のないものなど)を試してみます。
3. 「やり方が分からない」「間違いが多い」とき
声かけの例:
- 「この問題、どこが分からないかな?読んでみてくれる?」
- 分からない箇所を具体的に示してもらい、一緒に考えます。
- 「前にやったこれと同じやり方かな?一緒に見てみよう。」
- 過去の成功体験や類似問題と結びつけ、既有知識を活用することを促します。
- 「まずは問題文を指でなぞりながら読んでみようか。」
- 具体的な手順を示し、視覚や体の感覚を使って理解を助けます。
- 「間違えちゃったね。大丈夫、一緒にどこで間違えたか探してみよう。」
- 間違いを責めずに、学びの機会として一緒に振り返る姿勢を見せます。
- (ヒントを出すとき)「この言葉の意味はね、こういうことだよ」「計算の順序は、まずカッコの中からだったよね」
- 答えそのものではなく、解き方の糸口となる具体的なヒントを出します。
家庭での工夫:
- 手順をリスト化・視覚化する: 計算問題の解き方、文章問題の考え方など、手順が必要な場合は、紙に書き出して貼っておくなど、いつでも見返せるようにします。
- 参考になる例を用意する: 授業でやった類似問題のノートや、教科書の例題ページなどをすぐに参照できるようにしておきます。
- 「間違いOK」の雰囲気を作る: 間違いは悪いことではなく、学びのために必要なステップであることを伝えます。「間違うことで賢くなるんだよ」といったメッセージを伝えます。
4. 「なかなか終わらない」「完璧を目指しすぎる」とき
声かけの例:
- 「今日の宿題はここまでで終わりだよ。よく頑張ったね。」
- 終わりの基準を明確に示し、時間や労力がかかりすぎないようにします。
- 「ここはもう十分にできているよ。次の問題に進もうか。」
- 完璧主義によって先に進めない場合に、適度なところで区切りをつけることを促します。
- 「今日の目標は漢字練習を1ページやることだったね。目標達成できたね!」
- 量や質よりも、あらかじめ決めた目標を達成したことを認め、褒めます。
- 「全部終わらなくても大丈夫。先生に相談してみようか。」
- 量が多すぎる場合や困難が大きい場合は、一人で抱え込まずに周囲に助けを求める方法があることを伝えます。
家庭での工夫:
- 「終わりの時間」または「終わりの量」を決める: 例:「〇時になったら終わり」「国語と算数のドリルを1ページずつやったら終わり」など、具体的な終わりの基準を設定します。
- 宿題の量を調整する(学校と相談): 明らかにキャパシティを超えている場合は、学校の先生に相談し、宿題の量を調整してもらうことも検討します。
- 「完璧」ではなく「十分」で良しとする: 字の丁寧さ、間違いの数など、どこまで求めるかの基準を緩やかにします。提出できる状態であれば良し、とするなど柔軟に対応します。
5. 「やりたくない」「どうせできない」と拒否があるとき
声かけの例:
- 「やりたくないんだね。そう感じているんだね。」
- まずはお子様の気持ちに共感し、受け止めます。
- 「どうしてやりたくないか、聞かせてもらえるかな?」
- 拒否の背景にある理由(難しい、つまらない、疲れているなど)を穏やかに尋ねます。
- 「宿題はやらなきゃいけないことだけど、どうしたら始められそうかな?」
- 宿題の必要性を伝えつつ、お子様自身に解決策や代替案を考えさせます。
- 「もしこれができたら、その後に〇〇する時間があっても良いよ。」
- 宿題の後に楽しみな予定を入れるなど、モチベーションにつながる提案をします(効果には個人差があります)。
家庭での工夫:
- 「ご褒美」や「トークンエコノミー」を取り入れる: 宿題を終えたら好きなことができる時間を設ける、シールを貯めたら何か特別なことができるなど、外的な報酬を活用します。
- 好きな科目や簡単なものから始める: とっかかりとして、お子様が取り組みやすい内容から始め、成功体験を積ませます。
- 一緒に取り組む時間を設ける: 最初だけ一緒に机に向かう、分からないところを一緒に考えるなど、孤独感や困難さを軽減します。
- 宿題以外の時間でエネルギーを発散させる: 運動や遊びの時間を十分に確保し、宿題の時間に落ち着いて取り組めるように調整します。
応用・発展:継続のために大切なこと
ご紹介した声かけや工夫は、あくまで一般的な例です。お子様の特性やその日の状態、宿題の内容によって効果は異なります。大切なのは、これらのヒントを参考に、お子様に合う方法を見つけていくことです。
- 一つずつ試してみる: 一度に全てを試すのではなく、気になったものを一つから取り入れてみましょう。効果があったものは続け、そうでないものは別の方法を試すなど、柔軟に対応します。
- お子様と一緒に考える: 可能であれば、「どうしたら宿題をやりやすくなるかな?」「どんな声かけが良い?」など、お子様自身に尋ねてみるのも良い方法です。お子様自身が納得したり、自分で考えた方法だったりすると、取り組みやすくなることがあります。
- 完璧を目指さない: 毎日全ての宿題がスムーズに終わらなくても大丈夫です。目標を低めに設定し、できたことを認め合うことから始めましょう。
- 親自身の気持ちをケアする: 宿題の時間は、親にとっても負担が大きいものです。感情的になってしまう自分を責めすぎず、休憩を取る、パートナーや他の家族と交代する、支援者に相談するなど、ご自身の心身を労わることも忘れないでください。
まとめ
発達障害のあるお子様にとって、宿題は様々な特性が影響し合い、困難を感じやすいタスクとなり得ます。そのため、一方的な指示や感情的な声かけだけでは、かえって状況を悪化させてしまうことがあります。
この記事でご紹介した具体的な声かけや家庭での工夫は、お子様が宿題に取り組む際のハードルを少しでも下げるための手助けとなるものです。指示を分かりやすくする、環境を整える、スモールステップで進める、ポジティブな声かけを増やす、といったアプローチを通じて、お子様自身の「できた」という経験を積み重ねることが重要です。
宿題は「やらなければならないもの」ですが、親子関係を損なう原因であってはなりません。今回ご紹介したヒントが、皆様の宿題の時間が少しでも穏やかで、前向きなものになる一助となれば幸いです。