「待てない」に困ったら:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
「待てない」ことで、つい感情的になっていませんか?
スーパーのレジ待ち、病院の待合室、兄弟順番でのゲーム、指示したことへの反応…。日常生活には「待つ」場面が数多く存在します。
発達障害のあるお子様は、特性からこの「待つ」ことが苦手な場合が多く、「どうして待てないの!」と、つい保護者様が感情的になってしまうこともあるかもしれません。お子様自身も、待てないことで周囲から注意されたり、うまくいかなかったりして困っている場合があります。
この記事では、発達障害のあるお子様がなぜ「待つ」ことを難しく感じるのかをご説明し、家庭で今日から試せる具体的な声かけの方法や、環境を整える工夫をご紹介します。これらのヒントが、お子様とのコミュニケーションをより穏やかで円滑なものにする一助となれば幸いです。
なぜ「待つ」のが難しいの?発達特性との関連
お子様が「待つ」ことを苦手とする背景には、いくつかの発達特性が関係していると考えられます。お子様の困りごとの背景を理解することで、適切なサポートが見えてきます。
- 衝動性: 待つことが難しい理由の一つに、衝動性の高さがあります。「〜したい」と思ったらすぐに実行に移したくなり、待つことや我慢することが難しくなります。順番を抜かしてしまったり、指示を最後まで聞かずに動き出してしまったりすることがあります。
- 時間感覚の捉えにくさ: 漠然とした「後で」「ちょっと待ってて」といった言葉だけでは、どのくらい待てば良いのか、いつになったら次の行動ができるのかが見通しにくいため、不安になったり落ち着きがなくなったりします。
- 見通しの立てにくさ: これから何が起こるのか、自分が何をすれば良いのかといった先の見通しが立たないと、不安を感じやすくなります。「待つ」という行為そのものよりも、「待った先に何があるのか」「いつ終わるのか」が分からないことに耐えられなくなる場合があります。
- 感覚の過敏さ・鈍感さ: 待つ場所の音や匂い、混雑具合など、感覚刺激に過敏に反応してしまい、その場にいること自体が苦痛で待てなくなることもあります。逆に、自分の体の感覚(疲労や退屈など)に気づきにくく、適切なタイミングで待つ姿勢をとるのが難しい場合もあります。
これらの特性が絡み合い、「待つ」という一見シンプルな行為を難しくしているのです。これは、お子様が「わがままで待たない」のではなく、特性によるものだと理解することが、穏やかな声かけの第一歩となります。
具体的な声かけのヒント:待つをサポートする言葉
待つことが難しいお子様への声かけは、単に「待ちましょうね」と伝えるだけでは伝わりにくい場合があります。より具体的に、分かりやすく伝える工夫が必要です。
1. 待つ時間を具体的に伝える声かけ
漠然と待たせるのではなく、どのくらい待てば良いのかを具体的に伝えます。
- 「あと〇分で順番が来ますよ。」
- タイマーや時計を見せながら伝えるのも効果的です。「長い針が〇に来たら次だよ」など、視覚的な情報と結びつけると理解しやすくなります。
- 「この曲が終わったら、公園に行こうね。」
- 特定の事象の終了を「待つ時間の終わり」とすることで、見通しが立ちやすくなります。お子様にとって分かりやすい区切り(テレビ番組が終わる、〇〇が終わるなど)を使うと良いでしょう。
- 「ママが〇〇するまで、ここで待っていてくれる?」
- 待つ理由と、それがいつ終わるのかを簡潔に伝えます。「ちょっと待ってて」よりも具体的な行動を待つことになります。
2. 待つ理由や意味を伝える声かけ
なぜ待つ必要があるのかを、お子様が理解できる言葉で伝えます。
- 「今、〇〇さんの番だから、座って待っていようね。終わったら△△君の番だよ。」
- 順番がある理由、待つことで次に何が起こるのかを伝えます。
- 「危ないから、青になるまでここで待とうね。」
- 安全に関わることなど、待つことの重要な理由を簡潔に伝えます。
3. 待つ間の見通しや代わりの行動を提案する声かけ
ただ待つだけでなく、「待っている間」に何をするかを提案することで、退屈や不安を和らげ、衝動的な行動を防ぐことができます。
- 「待っている間、この絵本を読んでいようか。」
- 待つ時間を持て余さないように、事前に準備しておいたもの(絵本、小さなおもちゃ、折り紙など)を提示します。
- 「座って待っていようね。足は地面につけていようか。」
- 具体的に「待つ姿勢」を指示することで、どのように待てば良いか分かりやすくなります。
- 「今、順番を待っているところだよ。椅子に座って、周りの人を観察してみようか?どんな人がいるかな?」
- 待つこと自体を、観察などの別の活動にすり替える声かけです。
4. 待てた時に肯定的に伝える声かけ
たとえ短い時間でも、待つことができた経験を肯定的に伝えることで、お子様は「待つこと」が良いことだと学び、次も頑張ろうという気持ちにつながります。
- 「〇〇君、ちゃんと座って待てたね!すごい!」
- 具体的にどのような行動を褒めているのかを明確に伝えます。「偉いね」だけでなく、「〇〇ができたね」と具体的に伝えるのがポイントです。
- 「ママが買い物終わるまで、静かに待ってくれてありがとう。助かったよ。」
- 待ってくれたことへの感謝と、それがどのような良い結果につながったかを伝えます。
5. つい感情的になりそうな時の「自分への」声かけ
お子様が待てずに困った行動をとった時、保護者様自身も感情的になりやすいものです。そんな時は、まずは自分自身を落ち着かせる声かけを試してみてください。
- 心の中で「これは特性」「困っているのは子ども」と唱える
- 深呼吸をする
- 少し物理的に距離を置く(可能であれば)
落ち着いてからお子様と向き合うことで、穏やかな声かけを選びやすくなります。
家庭でできる具体的な工夫:待つをサポートする環境作り
声かけだけでなく、家庭や外出先の環境を少し整えることで、お子様が待つことへの負担を減らすことができます。
1. 待つ時間の「見える化」
時間感覚が捉えにくいお子様には、視覚的に時間を伝えることが非常に有効です。
- タイマーや砂時計: 残り時間が減っていく様子を目で見られるようにします。「これがピピッと鳴るまで待とうね」「砂が全部落ちたら次だよ」など、具体的な合図とセットで使います。
- 絵カードやリスト: 「やることリスト」の中に「待つ」という項目を入れたり、待つ必要のある場面(例:病院の待合室、レジ)で使う絵カードを用意したりします。「病院で待つ」「終わったら診察」のように、待つこととその後の見通しを一緒に示すとより分かりやすくなります。
2. 待つ場所や環境の工夫
刺激の多い場所や、落ち着かない環境では、待つことがさらに難しくなります。
- 気が散りにくい場所を選ぶ: 可能であれば、待つ間に気が散るようなものが少ない場所を選びます。例えば、病院の待合室なら壁側の席を選ぶ、などです。
- パーソナルスペースを確保: 人との距離が近すぎると落ち着かないお子様もいます。可能な範囲で、他の人との間に適切な距離を確保できる場所を選びます。
3. 待つ間の「つなぎ」になるものを用意する
手持ち無沙汰な時間は、衝動的な行動を誘発しやすくなります。待つ間に没頭できるものがあると、落ち着いて過ごしやすくなります。
- 小さなおもちゃや本: お子様がお気に入りの小さなおもちゃ、絵本、図鑑などを持ち歩きます。
- タブレットやスマートフォン: 時間や場所を限定して、短い動画を見たり、ゲームをしたりすることも有効な手段の一つです。ただし、使いすぎには注意が必要です。
- お絵かきセットや折り紙: 手先を使う活動は、集中力を高め、待つ時間を意識させにくくします。
4. 事前に見通しを伝える
「待つ」ことが必要な場面を事前に伝え、心の準備を促します。
- 外出前に予定を伝える: 「今日は病院に行って、診察の前に待つ時間があるよ」「スーパーではレジで少し待つことがあるよ」など、これから起こることを具体的に伝えます。絵やリストで示すとより効果的です。
- 「もし待つのが難しかったら、これをしようね」と代替案を共有する: 待つことが難しくなった時のための「逃げ道」や「次の一手」を事前に決めておくと、お子様も保護者様も安心できます。「もし座っているのが辛くなったら、この絵本を静かに読もうね」など。
5. 待つ練習を遊びに取り入れる
日常生活の中で、「待つ」ことを遊びの中で楽しく練習する機会を作るのも良い方法です。
- 順番を決めるゲーム: オセロやカードゲームなど、自然と順番を待つ必要のある遊びを取り入れます。
- 簡単な「まて」の練習: 「おやつを置いたら、『よし』と言うまで待ってね」など、短い時間から始めて、成功体験を積ませます。
応用・発展:根気強く、お子様に合った方法を見つける
ご紹介した声かけや工夫は、あくまで一般的な例です。すべてのお子様に同じように効果があるわけではありません。お子様の特性やその時の状況に合わせて、柔軟に試してみてください。
- 一つずつ試す: 一度にたくさんの方法を試すのではなく、まずは一つか二つの方法に絞って、しばらく続けてみましょう。
- お子様の反応を見る: どのような声かけや工夫が効果があったか、逆効果だったかをお子様の様子を観察しながら見極めます。
- お子様と一緒に考える: 少し大きなお子様であれば、「待つのが苦手な時、どうしたら落ち着いていられるかな?」と一緒に解決策を話し合ってみるのも良いでしょう。
- 完璧を目指さない: 毎日毎回うまくいくわけではありません。うまくいかなかった時も、自分やお子様を責めすぎないでください。「今日は難しかったね。次は〇〇を試してみようか」と、前向きに捉え直すことが大切です。
まとめ:穏やかなコミュニケーションのために
発達障害のあるお子様にとって、「待つ」ことは目に見えない壁のようなものです。それは、お子様のわがままや反抗ではなく、脳機能の発達の仕方の違いによる困りごとであることを理解することが何よりも大切です。
この記事でご紹介した具体的な声かけや家庭での工夫は、お子様が「待つ」というスキルを身につけるためのサポートであり、また、待てない時に落ち着いて対処するためのツールとなります。
すぐに大きな変化が見られなくても、根気強く、そして何よりもお子様に寄り添いながら関わっていくことで、少しずつ「待つ」ことへの抵抗感が和らいだり、待つための自分なりの方法を見つけたりすることができるはずです。
「待てない」という困りごとへの対応は、保護者様にとって大きな負担となることもあります。一人で抱え込まず、利用できる支援(専門機関や地域の相談窓口など)があれば、積極的に活用することも検討してみてください。この記事が、お子様とのコミュニケーションを少しでも楽に、穏やかにするためのヒントとなれば幸いです。