「忘れ物・失くし物が多い」悩みに:発達障害の子への声かけと家庭でできる工夫
発達障害のあるお子様の忘れ物や失くし物にお悩みの保護者の皆様へ
お子様が学校や習い事の持ち物を忘れてしまったり、家の中で大切なものをどこかに置いて失くしてしまったりすることが続き、どうすれば良いのか悩んでいらっしゃる保護者の方も多いのではないでしょうか。何度注意しても繰り返されると、「どうしてうちの子だけこんなに…」と、つい感情的になってしまうこともあるかもしれません。
忘れ物や失くし物は、お子様の「やる気がない」「だらしない」といったことだけが原因ではない場合が多くあります。特に発達障害のあるお子様の場合、特性からくる認知の偏りや脳機能の違いが関係していることが少なくありません。
このページでは、発達障害のあるお子様が忘れ物や失くし物を減らすために、保護者の方が家庭でできる具体的な声かけや工夫についてご紹介します。特性の理解を深めながら、お子様にとって実践しやすく、保護者の方にとっても負担の少ない方法を見つけるヒントとなれば幸いです。
なぜ忘れ物・失くし物が多くなるのでしょうか?~発達特性との関連~
発達障害、特に注意欠如・多動症(ADHD)の特性を持つお子様は、以下のような認知や行動の特性から、忘れ物や失くし物が多くなる傾向が見られます。
- 注意機能の偏り: 興味のあることには集中できますが、それ以外の必要なこと(持ち物の確認など)に注意を向け続けることが難しい場合があります。一つのことに注意が向くと、他の重要なことが頭から抜け落ちてしまうこともあります。
- ワーキングメモリ(短期記憶)の弱さ: 「あれを持って行って、これをして、次はこれを確認して…」といった複数の指示や手順を一時的に記憶しておくことが苦手な場合があります。言われたことをすぐに忘れてしまったり、作業の途中で何をするつもりだったか思い出せなくなったりします。
- 実行機能の苦手さ: 計画を立てて実行したり、行動を整理したり、優先順位をつけたりすることが難しい場合があります。「準備をする」というタスクを、必要なものを集める、カバンに入れる、確認するなど、具体的なステップに分解して実行することが苦手なことがあります。
- 衝動性: 「早く遊びたい」「早くここから離れたい」といった衝動に駆られ、目の前のタスク(片付けや持ち物確認など)を最後までやり遂げずに次の行動に移ってしまうことがあります。
これらの特性は、お子様の「がんばりが足りない」わけではなく、脳の機能的な違いによるものです。そのため、「ちゃんとやりなさい」「気をつけなさい」といった精神論や抽象的な指示だけでは、改善が難しいことがあります。特性を理解した上で、お子様が具体的に何をすれば良いか分かりやすく示し、実行しやすい環境を整えることが大切になります。
具体的な声かけの例と実践のポイント
お子様に何かを忘れてほしくないときや、失くし物を探すときなどに使える具体的な声かけの例をご紹介します。
1. 指示を分かりやすく伝える声かけ
持ち物の準備や片付けなど、忘れ物を防ぐための行動を促す際に有効です。
- 「今日の学校の持ち物は、〇〇と△△と□□だよ。一緒に確認してみようか。」
- ポイント: 一度に多くのことを伝えず、具体的な持ち物名をリストアップします。「あれとこれ」ではなく、具体的に「〇〇」と名前や形を伝えましょう。可能であれば、実物を見せながら確認するとより伝わりやすくなります。
- 「使ったハサミは、ハサミ立てにしまおうね。」
- ポイント: 抽象的な「片付けなさい」ではなく、「何を」「どこに」しまうのか具体的に指示します。場所を指差したり、定位置の写真を一緒に確認したりするのも良いでしょう。
- 「鍵をポケットに入れるんじゃなくて、このカゴの中に入れようね。お家の鍵だよ。」
- ポイント: 望ましくない行動(ポケットに入れる)ではなく、望ましい行動(カゴに入れる)を具体的に伝えます。「〜しちゃダメ」よりも「〜しようね」と肯定的な声かけを心がけましょう。
2. 確認を促す声かけ
準備ができたと思った後や、家を出る直前など、最終確認を促す際に有効です。
- 「お出かけする前に、リュックの中に〇〇が入っているか見てみようか。」
- ポイント: 子ども自身に確認を促す声かけです。一方的に確認するのではなく、「自分で見てみよう」と伝えることで、セルフチェックの習慣を促します。
- 「持ち物リストの□を見ながら、一つずつ指さしてチェックしてみよう。」
- ポイント: 視覚的なサポート(持ち物リストなど)を使うことを促します。ただ「リストを見て」と言うより、「〜を見ながら、〜してみよう」と具体的な行動を示すと、子どもは何をすれば良いか分かりやすくなります。
- 「玄関を出る前に、鍵を持っているかポケットを触って確認してみよう。」
- ポイント: 触覚や体の動きと紐付けて確認する方法を提案します。習慣化できれば、忘れ物防止に繋がります。
3. 肯定的な行動を促す声かけ
指示通りにできたときや、自分で忘れ物に気づいて対処できたときに、ポジティブな行動を強化する際に有効です。
- 「〇〇をちゃんとカバンに入れたんだね!すごいね!」
- ポイント: 具体的に「何を」「どうできたか」を具体的に褒めます。「偉いね」だけでなく、行動そのものに焦点を当てることで、何をすれば褒められるのかが明確になります。
- 「自分で〇〇がないことに気づいて、探し始めたんだね!素晴らしい!」
- ポイント: 結果だけでなく、忘れ物に気づいたことや、自分で解決しようとしたプロセスを褒めます。失敗から学び、次につなげる力を育みます。
4. 失くし物をしたときの声かけ
失くし物が見つからず、お子様が困っているときやパニックになりそうなときに落ち着いて対応する際に有効です。
- 「〇〇がなくて困っているんだね。大丈夫だよ、一緒に探してみよう。」
- ポイント: まずはお子様の感情に寄り添い、安心させます。一人で怒ったり責めたりせず、「一緒に」解決しようという姿勢を示しましょう。
- 「〇〇は、最後にどこで使ったか覚えているかな?そこから順番に見ていこうか。」
- ポイント: 見つけやすいように、探す手順やヒントを与えます。闇雲に探すのではなく、思考を整理して見つけ出すプロセスを一緒に考えます。
- 「もし見つからなくても大丈夫だよ。どうしたらまた失くさないか、一緒に考えてみようね。」
- ポイント: 見つからない場合でも、感情的に責めず、次の対策を考える建設的な姿勢を示します。失敗から学ぶ機会と捉えましょう。
家庭でできる具体的な「工夫」
声かけだけでなく、環境を整えたり、視覚的なサポートを活用したりすることで、忘れ物や失くし物を減らすことができます。
1. 物の「定位置」を決める
鍵、財布、学校の準備物(宿題、連絡帳)、リモコンなど、失くしやすいものや大切なものには必ず決まった「住所」を作ります。
- 玄関に鍵や財布を入れるカゴを置く。
- 宿題や連絡帳を出す場所、しまう場所を決める。
- リビングのテーブルの上には何も置かないエリアを作る。
ポイント: 物の定位置は、子どもが分かりやすく、使いやすい場所にすることが重要です。家族みんなでルールを共有し、協力して定位置に戻す習慣をつけましょう。定位置を写真に撮って貼っておくのも有効です。
2. 持ち物リストやチェックリストを活用する
準備するものが決まっている場合(学校の持ち物、習い事の持ち物など)に有効です。
- 持ち物リストを作成し、壁やカバンの近くに貼る。
- 項目を一つ入れたらチェックマークをつけられるようにする。
- 写真付きの持ち物リストも分かりやすい。
ポイント: チェックリストは、子どもが自分で確認する力を育む手助けになります。最初は保護者の方が一緒に確認し、慣れてきたら子ども自身に任せてみましょう。達成感を得られるように、できたことへの肯定的な声かけも忘れずに行います。
3. 視覚的なサポートを取り入れる
目で見て分かりやすくすることで、指示の理解や行動の定着を促します。
- 引き出しや棚に、何が入っているかのラベルを貼る。文字だけでなくイラストや写真を使うのも良いでしょう。
- 一日のスケジュールを視覚化する(絵カードや写真、文字リストなど)。「この時間の後に、持ち物準備をする」など、行動の順序を分かりやすく示します。
- 持ち物や片付けの手順をステップごとに分解し、イラストや写真で示す。
ポイント: 発達障害のあるお子様は、耳からの情報よりも目からの情報の方が理解しやすい場合があります。視覚的な手がかりを増やすことで、「次に何をすれば良いか」が明確になり、自分で行動しやすくなります。
4. 時間的なリマインダーを設定する
準備に取りかかる時間や家を出る時間を知らせるために、アラームやタイマーを活用します。
- 出発時間の〇分前にアラームを鳴らし、「あと〇分で家を出る時間だよ。準備は大丈夫?」と声かけをする。
- 片付けや準備の時間にタイマーをセットし、時間内に終わらせることを目標にする。
ポイント: 時間の見通しを持つのが苦手なお子様にとって、時間的な区切りが分かりやすくなります。アラームが鳴ったら次に何をすれば良いかを事前に決めておくと、スムーズに行動に移りやすくなります。
5. 紛失防止グッズを検討する
特に失くしやすいもの(鍵、ICカードなど)には、紛失防止タグやストラップなどを活用することも有効です。
- スマートタグを鍵などに取り付け、スマホから位置を確認できるようにする。
- ランドセルやカバンに鍵を取り付けられるキーホルダーをつける。
- ポケットに穴が開いていないか定期的に確認する。
ポイント: 高価なものや、失くすと困るものに限定して活用を検討します。グッズに頼りすぎるのではなく、あくまで「うっかり」を防ぐための一つの手段として捉えましょう。
継続するためのヒントと親御さんへのお願い
- 完璧を目指さない: 一度に全てを完璧にするのは難しいことです。まずは一つか二つ、取り組みやすそうな声かけや工夫を選んで試してみましょう。
- 親子で一緒に取り組む: 準備や片付けを「子どもだけの課題」にせず、「親子で一緒に習慣化するもの」と捉え、協力して取り組みましょう。親御さんが手本を見せることも大切です。
- できたことを褒める: 忘れ物をしなかったとき、自分で確認できたときなど、小さな成功を見つけて具体的に褒めましょう。ポジティブな経験が、次の行動につながります。
- 原因を責めない: 忘れ物や失くし物をしたときに、お子様を感情的に責めるのは避けましょう。「どうして?」と問いただすより、「どうしたら次からは大丈夫かな?」と一緒に解決策を考える姿勢が大切です。
- 休息とリフレッシュ: 毎日のお子様との関わりの中で、保護者の方も疲れを感じることがあるでしょう。一人で抱え込まず、配偶者や家族、友人、支援機関などに相談したり、ご自身の休息時間を確保したりすることも非常に重要です。
まとめ
発達障害のあるお子様の忘れ物や失くし物は、単なる不注意ではなく、特性による認知や実行機能の苦手さが関係していることが多くあります。叱るだけでは解決しないことも多いため、お子様の特性を理解し、具体的に何をすれば良いか分かりやすく示し、実行しやすい環境を整えることが効果的です。
今回ご紹介した具体的な声かけや、物の定位置決め、チェックリストの活用、視覚的なサポート、時間的なリマインダーなどの工夫は、ご家庭で比較的簡単に取り入れられるものばかりです。全てを一度に試す必要はありません。お子様の様子やご家庭の状況に合わせて、できそうなことから一つずつ試してみてください。
すぐに劇的な変化が見られなくても焦る必要はありません。お子様のペースに合わせて、根気強く、そして前向きに工夫を続けていくことが大切です。このページが、お子様とのコミュニケーションをより穏やかで円滑にし、お子様自身が忘れ物や失くし物に対処する力を育むための一助となれば幸いです。